第56回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-1] ポスター:精神障害 1

Fri. Sep 16, 2022 12:00 PM - 1:00 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PH-1-6] ポスター:精神障害 1閾値下うつ病の人々の抑うつ気分に対する肯定的な言語刺激を含む動画視聴スマートフォンアプリ介入

パイロットランダム化比較試験

打田 博行1平尾 一樹2 (1倉敷平成病院リハビリテーション部,2群馬大学大学院保健学研究科)

【はじめに】閾値下うつ病(StD)は大うつ病性障害(MDD)の診断基準を満たさないが, 臨床的に有意な抑うつ症状を特徴とする. StDはMDDの前兆であり, MDD発症のリスクファクターである. 加えて, MDDは再発しやすく, しばしば治療抵抗性の経過をたどることを考えるとStDに対する予防的介入の開発は重要である. 多くの研究がStDの人々の抑うつ症状を軽減することを目的としてきた. しかし, 抑うつ症状の増加が抑うつ気分の増加によって引き起こされることを考えると, StDの人々の抑うつ気分を改善することはMDDの発症を予防する可能性がある. 我々が開発した動画に肯定的な言語刺激を表示するアプリ(SPSRS)は, StDの人々の抑うつ気分を改善する画期的なアプローチとなりえる. SPSRSアプリはStDの人々の抑うつ症状を改善し, それによってMDDへの進行を防ぐことを目的とするアプリである. 以前に行われた5週間にわたるパイロットランダム化比較試験(RCT)では,SPSRSアプリ介入により, StDの人々の抑うつ症状の改善に対する予備的な有効性が示された. しかし, SPSRSアプリ介入により,StDの人々の抑うつ気分が即時的に改善するかどうかの証拠はない.そのため, 本格的なRCT実施に向け, StDの人々の抑うつ気分に対するSPSRSアプリ介入の予備的有効性を検証することを目的としたパイロットRCTを実施した.
【対象・方法】この研究は, 単一施設, 非盲検, 2群, ランダム化, 並行群間, パイロット試験として設計された. StDを有する32名の参加者は1:1の割合で, SPSRSアプリ介入(実験群=16名)またはYouTubeアプリ介入(統制群=16)に無作為に割り付けられ, 両群ともに同一の動画(バスケットボールのプレイ動画)を10分間視聴した. プライマリアウトカムは10分間の介入直後のT Profile of Mood States 2nd Edition-Adult Short (POMS 2-A Short)における抑うつ-落込みスコアのベースラインからの変化である. セカンダリアウトカムはPOMS 2-A Shortのその他のサブスコア, Total Mood Disturbance, およびState-Trait Anxiety Inventory State (STAI-S)のベースラインからの変化である. 統計解析は制限付き最尤法による線形混合モデルを使用した. データの分析はSPSS v.27.0を使用し, 効果量(ES)としてHedge’s gを算出した. 本研究は倫理審査委員会によって承認され, 参加者全員が書面によるインフォームドコンセントを受けた.
【結果】実験群は統制群に比べ, POMS 2-A Shortスコアにおいて抑うつ-落込みにわずかな改善を示した(Hedge’s g = -0.32). 加えて, 今後の本格的なRCTにおいて, POMS 2-A Shortのうつ病-落ち込みスコアを評価するためのサンプルサイズは各群56名(合計112名)と推定された.
【考察】本研究はSPSRSアプリ介入によるStDの人々の抑うつ気分への即時効果を検証した初めてのRCTである. このパイロットRCTでは, SPSRSアプリを用いた動画視聴介入は, YouTubeアプリを用いた動画視聴介入と比較して, 介入直後のStDの人々の抑うつ気分をわずかに改善する可能性を示した. StDの人々の抑うつ気分に対するSPSRSアプリの即時効果は小さいが, SPSRSアプリは, 無料で,時間や場所に関係なく, 短い時間で抑うつ気分を改善するため, 費用対効果の高い補助的な介入として日常診療に取り入れられ可能性がある. SPSRSアプリがStDの人々の抑うつ気分を改善するかを検証するためにはさらなる研究が必要であり, 正式なサンプルサイズに基づいて介入の効果を検証する本格的なRCTを実施することで, StDの抑うつ気分を軽減し, MDDの発症を予防できるかどうかを判断できる可能性がある.