第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-2] ポスター:精神障害 2

2022年9月16日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PH-2-1] ポスター:精神障害 2精神障害者のリカバリーと作業参加,認知機能の関連

入院群と外来群の比較

大類 淳矢1井上 貴雄1藤田 周平2大石 未来2北田 有沙3 (1大阪河﨑リハビリテーション大学,2東香里第二病院作業療法室,3東香里病院精神科作業療法室)

【序論】精神障害領域において対象者のリカバリーへの支援の重要性が謳われている.作業療法では,対象者にとって意味のある作業への参加状況(以下,作業参加)をその視点として持つ.また,精神障害者の認知機能障害と社会生活機能の関連が示され,作業療法支援の焦点の一つになっている.しかしリカバリーと作業参加,認知機能障害との関連や,入院中の者と地域生活を送る者との各指標の相違の検討は不十分である.
【目的】入院中の精神障害者(以下,入院群)とデイケアに通所する精神障害者(外来群)のリカバリーと作業参加,認知機能障害の関連及び群間の相違を明らかにし,特に入院する精神障害者へのリカバリー支援で作業療法士が取り組めることを明確にする.
【方法】精神科病院に入院中またはデイケアに通所する者で,個人情報保護と研究参加が自由意志であることを伝え,同意が得られた者を対象者とした.調査項目はリカバリー,作業参加,認知機能とした.リカバリーはRecovery Assessment Scale(以下,RAS)を,作業参加はSelf-completed Occupational Performance Index(以下,SOPI)を用い調査した.認知機能はBrief Assessment of Cognition in Schizophrenia(以下,BACS)で測定した.統計処理は入院群と外来群で各変数の群間比較をWelchのt検定またはMann-Whitney U検定により行い,また入院群の各変数間でSpearmanの順位相関分析を行い,有意水準は5%未満とした.なお本研究は,研究代表者の所属先の研究倫理委員会の承認及び,調査対象医療機関の病院長の承認を得て実施し,開示すべき利益相反する企業等はない.
【結果】入院群21名,外来群7名の結果が得られた.RASでは総合点と下位項目共に両群間で有意差は認められなかった.SOPI総合点は有意に入院群のスコアが低く(入院群:23.6±9.0,外来群:36.0±4.1,p<0.01),下位項目では「作業の統制」「作業バランス」「遂行満足度」「余暇活動」「生産的活動」は入院群が有意に低スコア(p<0.01)で,「セルフケア」は両群間で有意差は認められなかった.BACSは下位項目のうち「遂行機能」で入院群が有意に低スコア (入院群:-2.2±2.3,外来群:0.0±0.6,p<0.001) で,composite score及びその他の下位項目では有意差は認められなかった.入院群では,RAS総合点はSOPI総合点(ρ=0.49,p<0.05),作業の統制(ρ=0.44,p<0.05),作業バランス(ρ=0.47,p<0.05),遂行満足度(ρ=0.49,p<0.05),余暇活動(ρ=0.46,p<0.05),セルフケア(ρ=0.48,p<0.05)と有意な正の相関を認めた.BACS composite scoreは,RAS「自信をもつこと」と有意な負の相関を認めた(ρ=-0.59,p<0.01).
【考察】入院群では余暇活動や生産的活動への参加状況が外来群よりも低い一方,リカバリーは両群間に差を認めなかった.入院群のリカバリーには作業参加が関連し,セルフケアや余暇活動などの領域で対象者自身による統制やバランス,満足感を保つことで,対象者の主観的リカバリーが促進される可能性が示唆された.認知機能は,リカバリーの構成要素である「自信をもつこと」と有意な負の相関を認め,認知機能が高く保たれているほど自信を失っている状態であることが示唆された.高い病識は希望の喪失や QOLの低下との関連が報告されており,神経認知機能と病識の間の関連も報告されている.今回の結果も含めると,高い認知機能が高い病識を介して,リカバリーの低さに関連している可能性が考えられる.今後は,認知機能への介入がリカバリーや作業参加に与える影響,また作業参加の改善がリカバリーに与える影響を明らかにし,精神障害者への作業療法支援の有効性をさらに検証する必要がある.