第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-2] ポスター:精神障害 2

2022年9月16日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PH-2-2] ポスター:精神障害 2精神障害当事者の地域生活における化粧行為の現状と課題

インタビュー調査を通して

石橋 仁美1田中 智子2 (1東京工科大学医療保健学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻,2東邦大学医療センター大森病院精神神経科 イル ボスコ)

【はじめに】一般的に多くの女性が日常的に行っている化粧(ポーラ文化研究所,2017)は,生活行為の一つであり,積極性や気分の向上といった情動の変化(宇山ら,1990),対人交流技能の向上(松井,1993)などの効果がある.精神障害領域における化粧効果も多く報告されており,上記効果に加え陰性症状の改善(大和谷ら,2005),整容行為の習慣づけ(前田ら,2010)といった行動の変化がある.現在,精神障害領域で報告されている化粧支援は,その多くが入院患者を対象とした支援であり,地域で生活する当事者を対象とした論文は少ない.また,日本精神科病院協会に登録された精神科デイケアのホームページによると,化粧支援をしていると思われる施設はわずかであった.社会の中で暮らすようになると,自然と身なりが整うといわれている(木村,2015).しかしながら,地域で生活する精神障害当事者の化粧行為の現状は報告されていない.本研究の目的は,精神障害当事者へのグループインタビュー調査を通して,地域生活における化粧行為の現状と課題を検討することである.
【方法】対象は,東京都A区内にある地域活動支援センター,当事者会を利用する精神障害当事者の女性10名とした.包含基準として,①本研究への参加の意思を示すことが可能,②20歳以上69歳以下,③約50分間のインタビューを受けることが可能,④これまでに化粧をしていた経験のある者(現在化粧をしなくなっていてもよい)とした.3~4名ずつのグループインタビューを実施し,インタビュー前には年齢や疾患名,化粧状況の満足度(10段階自己評価),入院経験の有無などの基本情報アンケートを行った.インタビュー項目は,①化粧への興味,②化粧をするとき・しないときの行動の変化,③化粧の必要性,④これまでの化粧行為の変化,⑤化粧で困っていることとした.分析について,基本情報は単純集計を行い,インタビュー内容は文章化し,計量テキスト分析のフリーソフトであるKH Corder Ver.3の共起ネットワークを用いて分析した.対象者には,研究の趣旨と研究協力は自由意志であることなどを口頭及び書面にて説明し,同意を得た.本研究は,本学倫理委員会の承認を得て行った.
【結果】対象者の年齢は,30代が1名,40代が4名,50代が2名,60代が2名,未記入1名であった.現在の化粧の満足度は5以下,6以上それぞれ5名ずつであった.入院経験有りは3名,なしは6名,未記入1名であった.多くの対象者が化粧に興味があると答えた.対象者の語りから,化粧はするかしないかの2段階ではなくきちんと化粧をするとき,少しするとき,化粧をしないときの3段階のカテゴリーに分けられた.また,入院等により一旦化粧を辞めるも,回復につれ生活が整ってくると自ずと再開できており,化粧の心理的効果を実感できていた.対象者が抱える化粧の課題には,似合う化粧品が見つからないなど一般女性と共通と思われるもの以外に,人と会えるほど精神症状が回復しても,集中力を必要とし,根を詰める作業である化粧ができないときもあることが挙がった.
【考察】化粧支援がなくとも化粧の効果である行動面や心理面における変化を実感しており,これが地域における化粧支援の少なさの一因と考える.しかしながら,化粧の作業特性上,その細かさや工程省略の難しさがあり,体調によっては全く化粧をしなくなるといった課題も明らかとなった.これは入院患者と異なり,地域で生活する精神障害当事者の社会参加に向けての課題であり,支援の必要性も示唆された.