第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-2] ポスター:精神障害 2

2022年9月16日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PH-2-6] ポスター:精神障害 2急性期神経性食欲不振症患者のリハビリテーション

多職種介入により身体的・心理的回復とその人らしさの再建を目指して

野口 麻礼1宮地 洋介1落合 尚美1新島 郁穂1祢津 晶子1 (1聖路加国際病院)

【はじめに】神経性食欲不振症患者の極度の低体重状態では,入院での栄養療法による全身状態の改善が必須となる.栄養治療を行い身体機能を回復することが生命維持における急務であるが,この病気は心理面の問題が根本的な要因であり,心と体の両側面の治療が必要である.本症例では急性期病院における低栄養・低体重患者の栄養管理と身体的機能改善の時期から,心理的な適応を目指した関わりを報告する.
発表については本人に同意を得て,当院個人情報規定に沿って発表する.
【症例】20歳代女性,診断名神経性食欲不振症.X-1年,腹部刺創による自殺企図歴があり他院で入院,退院後は通院を自己中断していた.Ⅹ日に腹痛を訴え当院に救急搬送,腸閉塞の診断となり消化器・一般外科に入院した.入院時身長161cm,体重33.0kg,BMI12.7で高度栄養障害の状態にあり,るい痩で立つことも困難であった.手術が必要な状態であったが,手術の説明に対して「栄養療法は受けたくない.今の状態が衰弱死につながることも理解している,私の考えは変わらない」と拒絶していた.栄養管理に本人は拒否を続け,両親も本人が治療を望まない状態での治療の開始を悩んでいる様子であった.本人の明確な治療拒否の意思表出があるため,弁護士とも患者の治療を進めるべきか協議したが,本人が望まない限りは治療を行うことは出来ないとの判断であった.医師より説得を続けX+15日に本人に栄養療法への同意が得られ中心静脈栄養を開始したが,X+16日に絞扼性イレウスとなり緊急開腹術を行った.
【経過】栄養治療とリハビリを実施し,X+116日に自宅退院となった.術後の最低体重27.8kgから退院時体重は35.1kg,Barthel Indexは0点→100点へと向上し,筋力は開始時MRCSS0点→44点へと向上した.作業療法では体重増加を恐れているケースに傾聴・共感を示しつつ,ケースの個性と出来ることを確認し自尊心と健康的自己の手助けになるように努めた.身体機能に合わせてADLの拡大を目指し,作業活動を用いて患者の個性を支持したり,医療者との交流を促していった.患者は退院に向かうにつれて,食に関する関心が出てきたり,自身の見た目に目を向ける様子も見られた.看護師と笑顔で関わったり,体重が減少した際は涙を見せる相談する,といった心を開き弱さを見せられる様子が増えた.退院前には「体重は増やしたくないけど,減るのも困る,今のままではいけないと思う」と葛藤が聞かれ,病的な自己と向き合う様子が窺えた.
【考察】神経性食欲不振症患者のプライマリケアガイドラインにおいて,「痩せの程度と活動制限の目安」は入院適応以上の低体重では明確な活動目安は示されていない.低体重の急性期リハビリにおける端坐位・離床訓練は,消費エネルギーは極わずかで栄養管理の阻害となるとは言えず,臥床に伴う無気肺の改善に効果があると考えられ,早期からリハ職種による介入が重要と考える.また,栄養士との栄養管理において,早期から低炭水化物・高脂肪(中鎖脂肪酸)・高蛋白質の栄養管理が浮腫の抑制を図ることができ,身体機能改善に大きく寄与したと考える.本ケースは生命危機の身体状況でありながらも,明確な意思をもって治療を拒否する状態の患者であった.その中で多職種の専門的な関わりと分担を行ない,治療を継続することが出来た.ベストな治療環境は精神科病棟による管理下での治療が望ましいと考えられ,治療における精神的な負荷がかかった際に自傷行為を行うリスクが常に懸念材料であった.当院のような精神科病棟を持たない急性期病院でも,早期身体治療のから精神面に配慮した介入を行うことが私たちの使命と考える.