[PH-3-1] ポスター:精神障害 3岡崎医療刑務所における機能向上作業の作業療法実践
【はじめに】
岡崎医療刑務所(以下,当所)は,精神的に何らかの障害を有する男子受刑者に,専門的治療処遇を実施する刑事施設である.H31年から常勤の作業療法士(以下,OTR)が配置され,病状の安定を図り,一般施設や出所後の生活適応能力の改善を目的に作業療法を実施している.R3年から,新たな取組として「機能向上作業」が試行的に開始となった.本報告では,当所における機能向上作業の現状について,事例を交え報告する.
【機能向上作業とは】
本作業は,刑務作業に位置づけられ,OTRによる定期的な評価やアドバイスを得ながら,身体機能や認知機能の維持・向上を図り,段階的に一般的な刑務作業に移行するとともに,出所後の社会復帰までを見据えることを目的としている.
当所では,R3年8月から試行運用された.対象者は,心身の疾患や障害を有するなど,通常の刑務作業への就業が困難と認められた昼夜居室処遇の者とした.開始時は5名を対象とし,活動時間は週5回1時間半とした.評価としては,難易度別にAランク(高作業)は紙袋制作,Bランク(中作業)は封筒作り,Cランク(低作業)はリボン結びに分けて設定し,作業遂行機能を評価した.また,これらは活動全体の観察評価と合わせて,1か月単位で記録として残すことにした.プログラムもランク別に難易度を設定し,創作活動,園芸,SST,運動などを実施した.
【事例紹介】
40歳代の男性,診断名は心因反応,罪名は建造物侵入及び窃盗である.周囲との関わりを避け,刑務作業の拒否を繰り返し,人目を気にしてささいな物音におびえ震える集団処遇困難者であった.初期評価では,過緊張で,コミュニケーション能力や活動全般に体の使い方が不器用で細かい作業に問題が見られていた.介入は,他の受刑者と交流を持つプログラムを中心にコミュニケーション能力及び巧緻性などを重点的に反復して指導した.
その結果,緊張感が和らぎ,おびえる行動はなくなり,自ら周囲とも交流しようとする姿勢が見られるようになった.作業に関しては,完成度が飛躍的に向上した.観察でも,意欲,段取りなどの各項目の向上が認められ,最終的に,昼夜居室処遇から一般工場へと就業が可能になった.また,出所時の感想について,本人は機能向上作業にもう少し早く参加できていたら,もっと自分が変われたんだと思いました.」と述べていた.
【考察】
刑務所での“作業”は刑務作業を示し,OTRが用いる“作業”は生活行為を示す.一見全く意味合いが異なる“作業”に思われるが,刑務作業は,罪と向き合うという側面だけではなく,役割を自覚させ,勤労意欲を養うなど,刑務所内から社会復帰後の地域生活を見据えた連続性のある支援の一環であると言える.そのような面から考えれば,刑務作業はOTRが用いる“作業”と合致すると考える.
本事例のように,何らかの精神疾患によって他者と集団行動が取れなくなり,作業遂行機能に課題を抱えている者が一定数存在する.当所の被収容者は受刑者であり,また患者であるため,疾患や精神症状に対して段階的処遇を以前から実施している.問題を抱える被収容者には,段階的に指導を実施することで,本来の“作業”に結び付けることが重要である.今回,OTRが機能向上作業というプロジェクトに携わっているということは,OTRが対象者の症状や環境などを総合的に判断し,全体像を見立て,介入できるからだと考える.その結果,被収容者の社会復帰や再犯防止につながっていくのではないか.現時点では,始まったばかりで事例が少ないが,対象者のことを考え介入していくことで,おのずから結果が出せるのではないかと考えている.
岡崎医療刑務所(以下,当所)は,精神的に何らかの障害を有する男子受刑者に,専門的治療処遇を実施する刑事施設である.H31年から常勤の作業療法士(以下,OTR)が配置され,病状の安定を図り,一般施設や出所後の生活適応能力の改善を目的に作業療法を実施している.R3年から,新たな取組として「機能向上作業」が試行的に開始となった.本報告では,当所における機能向上作業の現状について,事例を交え報告する.
【機能向上作業とは】
本作業は,刑務作業に位置づけられ,OTRによる定期的な評価やアドバイスを得ながら,身体機能や認知機能の維持・向上を図り,段階的に一般的な刑務作業に移行するとともに,出所後の社会復帰までを見据えることを目的としている.
当所では,R3年8月から試行運用された.対象者は,心身の疾患や障害を有するなど,通常の刑務作業への就業が困難と認められた昼夜居室処遇の者とした.開始時は5名を対象とし,活動時間は週5回1時間半とした.評価としては,難易度別にAランク(高作業)は紙袋制作,Bランク(中作業)は封筒作り,Cランク(低作業)はリボン結びに分けて設定し,作業遂行機能を評価した.また,これらは活動全体の観察評価と合わせて,1か月単位で記録として残すことにした.プログラムもランク別に難易度を設定し,創作活動,園芸,SST,運動などを実施した.
【事例紹介】
40歳代の男性,診断名は心因反応,罪名は建造物侵入及び窃盗である.周囲との関わりを避け,刑務作業の拒否を繰り返し,人目を気にしてささいな物音におびえ震える集団処遇困難者であった.初期評価では,過緊張で,コミュニケーション能力や活動全般に体の使い方が不器用で細かい作業に問題が見られていた.介入は,他の受刑者と交流を持つプログラムを中心にコミュニケーション能力及び巧緻性などを重点的に反復して指導した.
その結果,緊張感が和らぎ,おびえる行動はなくなり,自ら周囲とも交流しようとする姿勢が見られるようになった.作業に関しては,完成度が飛躍的に向上した.観察でも,意欲,段取りなどの各項目の向上が認められ,最終的に,昼夜居室処遇から一般工場へと就業が可能になった.また,出所時の感想について,本人は機能向上作業にもう少し早く参加できていたら,もっと自分が変われたんだと思いました.」と述べていた.
【考察】
刑務所での“作業”は刑務作業を示し,OTRが用いる“作業”は生活行為を示す.一見全く意味合いが異なる“作業”に思われるが,刑務作業は,罪と向き合うという側面だけではなく,役割を自覚させ,勤労意欲を養うなど,刑務所内から社会復帰後の地域生活を見据えた連続性のある支援の一環であると言える.そのような面から考えれば,刑務作業はOTRが用いる“作業”と合致すると考える.
本事例のように,何らかの精神疾患によって他者と集団行動が取れなくなり,作業遂行機能に課題を抱えている者が一定数存在する.当所の被収容者は受刑者であり,また患者であるため,疾患や精神症状に対して段階的処遇を以前から実施している.問題を抱える被収容者には,段階的に指導を実施することで,本来の“作業”に結び付けることが重要である.今回,OTRが機能向上作業というプロジェクトに携わっているということは,OTRが対象者の症状や環境などを総合的に判断し,全体像を見立て,介入できるからだと考える.その結果,被収容者の社会復帰や再犯防止につながっていくのではないか.現時点では,始まったばかりで事例が少ないが,対象者のことを考え介入していくことで,おのずから結果が出せるのではないかと考えている.