第56回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-3] ポスター:精神障害 3

Fri. Sep 16, 2022 3:00 PM - 4:00 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PH-3-3] ポスター:精神障害 3メンタルヘルス不調により休職中の作業療法士の体験

牧 利恵1小林 隆司2 (1東京都立大学人間健康科学研究科作業療法科学域博士後期課程,2東京都立大学人間健康科学研究科作業療法科学域)

【背景と目的】厚生労働省が実施した令和2年の労働安全衛生調査によれば,メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者の割合は0.4%とされる.これを日本の総労働人口にあてはめると275万人となる,この年代の意味のある作業として労働は重要であり,休職を予防・短縮することは,作業療法の見地から取り組むべき課題であると考える.本研究の目的は,メンタルヘルス不調により休職した作業療法士の休職前後の体験を明らかにするものである.先行研究では,作業療法士の体験について明らかにしたものはなく,職場管理の面からも重要であると考えた.
【対象と方法】対象は休職中の作業療法士A氏とした.A氏とはSNSや電話,会食などを通じて,自然な文脈でコミュニケーションをとった.A氏の発言内容などをノートにメモし,その記載は数年続いた.データ分析では,ノートを何度も読み直し,分岐点となった認識の変化を抽出し,分岐点から分岐点までを1つの期間とし名前を付けた.さらにそれぞれの期間で,就労を促進する因子と抑制する因子について検討を加えた.そして最後に,國分(2022)の暇と退屈の類型をベースにA氏の体験に考察を加えた.データ分析は,筆頭演者と第2演者でおこなった.なお,A氏からは発表に対する同意を得ている.COIはない.
【結果】3つの分岐点と4つの期間が抽出された.以下,分岐点は【】,期間は<>で示す.
<第1期:期待に応えようと頑張った時期>では期待されている新しい職場,大学院で身に着けたスキルを活かしたいという気持ち,作業療法の魅力,理解してくれる友人,自分を認めてくれる友人,唯一職場で相談ができる同僚,楽しい研究活動が就労継続を促進させた.しかし【上司との関係が上手くいかない】という感情が起きてきて,仕事を離れるという道も浮かんできたが,就労は継続した.
<第2期:思うような作業療法ができない時期<では,対象者にとって意味のある作業を支援するという自分の信じる作業療法を上司や同僚から否定され,機能訓練をやるべきとの圧力を感じていた.周りの対応はどんどんきつくなり,病気で休んだ時,仮病使って海外旅行でも行ったのかと言われることもあった.ここにきて【自分の存在が認めてもらえない】という認識がおき,うつ病の発症もあり休職となった.<第3期:休職期>では,サポートしてくれる友人や家族が促進因子となっていたが,うつ病,自己肯定感の低さが復職を制限する因子となり休職が継続した.しかし,【復職したい気持ちが沸き上がってきた】ことで次の期間に移行した.<第4期:復職を探る時期>では未だ休職ではあるものの,友人,就労を進めてくれる家族,応援してくれる周囲の人間の影響から少しずつ楽しみもできてきたが,うつ病の回復がまだ十分でなく復職には至っていない.
【考察】上記の期間を暇と退屈の類型に当てはめると,第1期:暇がない+退屈していない,第2期:暇がない+退屈している,第3期:暇がある+退屈している,第4期:暇がある+退屈していない,と考えられた.國分によれば,第1期はあくせく働く時期といえる.充実しているかもしれないが,危うさもある.第2期は,暇なき退屈で,豊かさから一番疎外された状態である.破綻に向かうのも必然と言える.第3期は,暇を生きる術を知らず,退屈から逃れたいとする時期である.第4期は,暇を生きる術を持っていた階級の生き方で一番豊であると考えられる.A氏は第4期にとどまらず復職という傷つく方向へと向かっていくだろうが,暇があるが退屈しない生き方を部分的にでも続けられたら破綻が予防できると考える.