第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-4] ポスター:精神障害 4

2022年9月16日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PH-4-1] ポスター:精神障害 4衝動コントロール不良の精神科デイケア利用者に対し金銭管理能力の獲得を目指した一例

岩渕 彩奈1菊地 さやか2 (1サンメンタルクリニックデイケア,2協和病院医務部作業療法科)

【はじめに】衝動コントロールの行動的アプローチとして,日記などの記録をつけることによって自己チェックを図る方法がある(三村,2009).今回,金銭自己管理の希望が聞かれるものの現実検討能力低下と衝動コントロール不良が障壁となっていた精神障害者に対し,支出表を用いた自己チェックを促すアプローチが有効ではないかと考え,介入を行った.行動変容が見られた一方,支援者の課題が挙げられたため報告する.
【事例紹介】軽度知的障害(WAIS-Ⅲ:FIQ62,VIQ60,PIQ70),アルコール依存症,双極性障害を呈する40歳代女性A氏.離婚歴があり子供がいる.飲酒,買い物への依存などで入院経験があり,現実検討能力が低く自己の欲求を通す傾向にあった.兄夫婦との関係不良で子供とも疎遠となっており,X-2年(現在をX年とする)にグループホーム(以下GH)へ退院し,現在通院しながら週5回デイケアを利用.
【作業療法評価】幅広いプログラムに参加し,集団活動では中心的なメンバー.GHでのADLは自立,金銭面では「衝動的に買ってしまう.」と話すがコントロール出来ず,メモ以外の物を買う様子が見られた.日用品では服や美容品への出費も見られた.ニードとして就労と一人暮らしが挙げられ,金銭自己管理の希望が聞かれた.
【基本介入】A氏と相談の上,予算(障害者年金受給額より月7万円)内に収まる買い物を目標に設定した.支出をメモし,月末にGH代や病院,店舗毎に合計金額を表にまとめた.6か月実施し,毎月OTRと振り返りを行った.自己チェックで得た気づきが衝動コントロールに繋がると考え,A氏の自律性を尊重し支持的に関わった.倫理的配慮として, 同意は自由で,取りやめる場合にも不利益は生じないと説明し,書面にて同意を得た.なお,本研究は当法人の倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号22-01).
【経過】介入初期:食材の買い物にて「手持ちのお金を超えてポイントで支払った.」と話し,OTRはポイントを把握して買い物出来たことを認めた.支出表作成に支援は要さず,ベッドや衣類を購入し予算を約3万円超えた.介入中期:子供との電話を目的にスマートフォンの契約を希望し,自ら食費(4千円→3千円/週)と日用品(1万円→5千円/月)の予算を減らす計画をOTRに口頭で伝えた.子供の意志は未確認であったが,具体的な目標立案を肯定した.食費に変化はないが,衣類などの日用品の支出は減額し,予算+3千円~1万円ほどに抑えた.介入後期:歯科受診などが増え「医療費がかかってスマホ代に充てられない.」と話し,支出表作成が不定期になった.
【結果】目標の月7万円に収まらなかったが,介入初期に比べ優先度の低い買い物が減った.一方,衝動コントロールには至らず食費の減額未達成や支出表作成の不定期化となった.
【考察】金銭管理において自分の収入源や額を知った上で,自身の経済状況に見合った生活を送ることが大切(鳴村,2013)であり,A氏も病前と比べた現在の経済状況への気づきが現実検討に繋がり,優先順位を付けた買い物が出来たと考えられる.衝動性が高いと注意が自分の欲求のみに向けられ,目標達成の動機,構え,意図などが意識されず(甲斐ら,2017),今後は支出だけでなく目標達成の流れや具体的な行動目標などを可視化して意識できる取り組みが重要となり,A氏から減額目標が聞かれた際も同様の支援をすべきであった.さらに同文献では,統一された声掛けや対応方法をとる人的環境の構造化が独居継続を可能にしたとあり,OTRのみだけでなく,他のデイケアスタッフやGH世話人とも情報共有を行い,各々役割を持って関わる包括的な支援が必要であると考えられる.