第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-4] ポスター:精神障害 4

2022年9月16日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PH-4-2] ポスター:精神障害 4精神障害者に対する就労定着支援の内容

1年間の後向きコホート研究

河埜 康二郎12竹原 亜弥子1芳賀 彩織1遠藤 謙二1小林 正義3 (1医療法人友愛会千曲荘病院,2信州大学大学院総合医理工学研究科,3信州大学大学院医学系研究科)

【はじめに】
 精神障害者の就労支援は作業療法の重要課題の一つである.千曲荘病院の精神科デイケア(DC)では2016年度よりハローワークと連携した就労支援モデル事業を実施している.このDCの就労準備プログラム(ジョブコース)は,国内外の先行研究(IPSモデル, 援助付き雇用)と比較し,就労率や就労継続率などが高いことを確認している(河埜ら,2021).そこで本研究では,ジョブコース参加者の一般就労継続に影響を及ぼす要因を検討することを目的に,就労後の定着支援内容を調査した.
【対象と方法】
 ジョブコースは1日6時間×週5日を10〜13週間かけて実施するプログラムで,作業療法士を含むDCスタッフとハローワーク職員が運営を担当した.内容は疾患管理とリカバリー(IMR)に基づく心理教育,SST,メタ認知トレーニング(MCT),体力作り,パソコン練習,職場実習等であった.就職後は支援チームによる定着支援を行なった.2016年5月~2020年11月のプログラム参加者のうち,就職日から1年以上が経過した参加者を調査対象とした.就職後1年以上就労継続した者を「継続群」,途中退職した者を「退職群」とし,両群の属性,支援の内容と時間を比較した.また,退職群の主な退職理由を調査した.カテゴリー変数の比較にはχ2検定とフィッシャーの正確確率検定,数量化変数の比較にはMann–Whitney U testを用い,危険率5%未満を有意とした.本研究は所属する大学院の医倫理委員会の承認を得た.
【結果】
 対象者は49名(男性28名,女性21名,平均36.0±10.5歳)で,43名(87.8%)が継続群であった.継続群43名(男性24名,女性19名,平均36.0±10.6歳)と退職群6名(男性4名,女性2名,平均36.0±9.6歳)との比較では,基本属性,労働業種,労働時間,労働賃金等に有意な差はなかった.1ヶ月あたりの定着支援時間は継続群が13.4±18.4時間,退職群が2.1±1.4時間で,継続群が多い傾向にあった.定着支援の内容(継続群/退職群)は,DC利用が777.2±1096.5 / 50.0±72.8分で継続群が有意に多かったが(p < .01),アウトリーチ支援8.1±5.5 / 24.3±19.3分,個別サービス(面談等)17.3±12.8 / 37.5±38.5分,電話相談2.6±6.1 / 14.9±21.0分はいずれも退職群が多く,電話相談では有意差を認めた(p < .05).退職群の就職から退職までの日数は平均170.7±80.4日,退職理由は体調不良が3名,転職が1名,契約期間満了が1名で,体調不良者の診断は全例が統合失調症であった.
【考察】
 継続群の1ヶ月の就労定着支援時間は13.4±18.4時間で,先行研究(IPSモデル)の11.2±9.4,10.9±7.7時間(Yamaguchi, 2017, 2020)より多く,DC利用が多い継続群の特徴を表している.ジョブコースはDCプログラムとして実施され,参加者は就職後もDCを利用しており,DCでの仲間や支援者との交流の維持が職場定着に奏効した可能性がある.退職群はDC利用時間が少なく,退職に関する個別対応が必要となり,アウトリーチ,個別サービス,電話相談の時間が多かった.体調不良で退職した者は全例が統合失調症であり,先行研究(Teixeira et al., 2018; Mahmood et al., 2019)の指摘と同様に,統合失調症患者の就労定着支援では,症状の重症度や認知機能障害を考慮したフォローアップが重要と思われた.