第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-4] ポスター:精神障害 4

2022年9月16日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PH-4-3] ポスター:精神障害 4精神科デイケアにおける成人期ADHD者への支援

自己理解と対処の獲得により就労へ踏み出せた一事例

水野 健12 (1昭和大学発達障害医療研究所,2昭和大学附属烏山病院リハビリテーションセンター)

【はじめに】成人期注意欠如多動症(以下:ADHD)の治療においては,薬物療法だけでなく心理社会的治療の重要性が言われている.個別対応の報告が多い中,今回,精神科デイケアで成人期ADHD患者の支援を行った.これまでの生活歴の中での失敗経験,特に就労での失敗により就労へと一歩踏み出せない事例であった.プログラムを通して自身の能力を発揮できるような工夫や対処に取り組み自己効力感の向上を目指した関わりを行った.その結果,就労移行支援事業所への通所,就労へと結びついたので,経過及びデイケアにおける治療の有効性について報告する.なお,倫理的配慮として,対象者に書面および口頭にて趣旨,匿名性の確保等を説明し,書面により報告への同意を得ている.
【事例紹介】20歳代,男性,ADHD.大学卒業後は就職出来ず,アルバイトするも長続きしなかった.仕事をすること自体への恐怖が強いことが語られた.診断後,当院のADHD専門プログラムを経て就労に向けたデイケアプログラムに参加となった.プログラムでは,高いコミュニケーション能力を発揮する一方で身体を前後に揺らしたり,集中出来ていない様子が認められた.日本語版青年・成人感覚プロファイルでは,感覚探求が高いことが示された.プログラム以外の時間は他メンバーと交流することはなく一人で過ごすことが多かった.作業療法的視点による評価として,作業に関する自己評価改定版(以下,OSA-Ⅱ)を実施した.自分について有能性32点,価値62点,環境について有能性10点,価値24点であった.「自分の能力が分からない」「うまくいかなかったら投げ出している」「他人と上手くやれない」などのコメントが聞かれた.環境に関しては支援してくれる人はいないと認識していた.ADHD特性に起因する課題に対して十分な対処ができず習慣化されない結果,自己効力感を低め遂行能力を発揮できずにいるという悪循環に陥っていると解釈した.
【経過】デイケア内行事の企画,立案,運営を行うプログラムへ導入.センソリーダイエットの視点を取り入れたり,プログラム中に役割を担うことで集中を持続させることを目標に取り組んだ.欠席なく参加し,行事を完遂することが出来た.役割をこなしていく中で他メンバーからフィードバックを得る機会が増え,休憩時間に雑談をする姿も見られるようになった.本人の自覚的な集中の程度は改善を見せ,多動を抑えられていることが観察された.スタッフへの相談や面談の希望も聞かれるようになった.
【結果】OSA-Ⅱは,自分について有能性45点,価値65点であった.初回評価と比較し,有能性は遂行,習慣,意志すべての領域で向上していた.また,有能性と価値の得点の差は減少し作業に対する満足度が向上していることが伺えた.加えて「工夫して自分の課題に徐々に取り組んでいきたい」とのコメントが聞かれた.環境については,有能性17点,価値26点に向上し,「デイケアスタッフが支えである」と述べた.その後,6ヶ月間の就労就労移行支援事業所利用後,就労に至った.
【考察】デイケアプログラムは,自身の能力を具体的かつ客観的に確認できる機会であった.配慮があれば能力を発揮出来るという経験となり,安心感をうみ自己効力感の向上に寄与したと考える.自己効力感の高まりが,これまで躊躇していた就労へと向かって動きだすきっかけになったと言える.これまでかつ障害特性に配慮されていない環境で失敗経験を積み重ねてきたことの多い発達障害者にとって,安心できる環境の中で,失敗を含めた経験を積み,少しずつ対処できる感覚を持てることが出来るデイケアの治療構造は有効である.