第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-4] ポスター:精神障害 4

2022年9月16日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PH-4-4] ポスター:精神障害 4作業療法士として精神科訪問看護に携わった1年

町田 茜1春原 るみ2田山 愛1市川 翔平1齊藤 大貴1 (1上松病院作業療法室,2長野保健医療大学保健科学部作業療法学専攻)

【はじめに】
 精神科医療は現在,入院治療から地域移行が積極的に進められている.退院後の支援の1つとして精神科訪問看護(以下訪問)がある.精神科医療に携わる作業療法士(以下OTR)は約8700人,OTR全体の約18%を占める.しかしその中で訪問に携わるOTRは約270人,精神科医療に携わるOTRの約3%である1).そのため訪問に関するOTRによる実践報告は少ない.筆者は5年半精神科急性期病院で院内専従OTRとして勤務し,現職場へ異動した.実際に訪問に携わるようになり,訪問におけるOTRの役割,他職種や院内OTRとの連携,対象者支援での課題など様々な出来事を経験した.この1年で見えてきた訪問におけるOTRとしての現状と課題を報告する.今回の報告は上松病院の倫理審査を受けている.
【当院と精神科訪問看護について】
当院は長野市北部にある単科の精神科病院で,病床数は160床,長期入院患者が多い.外来作業療法(以下外来OT)を実施しているがデイケアは設置されていないため,地域生活の支援として外来OTと訪問が重要な役割を担っている.当院の訪問は看護師7名とOTRの計8名で構成されている.必要に応じて精神保健福祉士や病棟看護師がサポートに入る.スタッフ2人1組で訪問し1件約30分,部門全体で1日約24件を訪問する.訪問登録者数は現在100名を超えている.対象者の主な疾患は統合失調症,外来OT利用者の86%が訪問を併用している.
【支援内容】
OTRは看護師のサポートを中心に対象者支援を行っている.体調や生活状況の確認,配薬・内服薬の残数確認といった服薬管理を行う.そのため30分間という限られた時間の中で行えることは限られており,生活のニーズや困り事など生活行為に焦点をあてたOTらしい介入は実施できていないのが現状である.
 外来OTと訪問を併用している対象者のなかで,対人緊張が強く受診以外は自宅に引きこもり,外来OTに来ることに強い不安・緊張を抱いている対象者がいる.外来OT利用日が近づくと不安から体調を崩し頓服薬の使用も増えていたが,そのことを院内OTRに話さず,訪問の場で不安を語っていた.OTRが訪問に関わるようになり,院内OTRに本人の特性や思い,地域生活に基づいた関わり方を提案することができた.今後は対象者がどのように外来OTを利用し,どのような生活を目指していくか考えていく必要がある.
また新型コロナウイルスの感染拡大により,長野圏域の感染状況に合わせて当院の外来OTも中止となった.しかしその間も訪問は感染対策を行いながら業務を継続,外来OT中止中の対象者を継続して支援し,院内OTRと対象者の橋渡しの役割をとった.またコロナ禍特有の作業であるワクチン接種に関する支援があり,ワクチン予診票記入の支援や持ち物の確認,接種後の副反応のフォローなどワクチン関連の援助を行うことも多かった.特に情報量の多いワクチン接種券は認知機能障害を持つ人にとって1人で対処することは大変であり,支援が必要だった.
【考察】
 1年間の訪問業務を経て,実際の地域生活の中でタイムリーな支援を行い,院内の臨床では出来なかった多くの経験を積み,対象者全般を理解することに繋がった.常に他職種と業務を行う環境でOTRとして何ができるのか,それ以上に1人の医療者として対象者に何が出来るのかを考え学びの日々となっている.また訪問に出ることで院内OTのあり方を考える必要性を感じた.
 訪問に携わるOTRはまだ少ないが,今後訪問OTRが増えていき実践報告が積み重なり,訪問におけるOTRの必要性が他職種にも伝わり専門性を発揮できるようになると良いと考える.