第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-4] ポスター:精神障害 4

2022年9月16日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PH-4-5] ポスター:精神障害 4精神科作業療法士の身体的リハビリテーションに関する質的研究

精神科作業療法士一例によるM-GTAを用いた検討

嘉部 匡朗12渡部 喬之12青木 啓一郎2 (1昭和大学横浜市北部病院,2昭和大学保健医療学部作業療法学科)

【目的】近年,精神科医療分野では高齢化に伴い身体合併症者が増加傾向にあり,その多くを精神科作業療法にて対応している.しかし,現行の診療報酬制度では,身体合併症者に対応するための十分な個別介入時間や設備が整わず,未算定で介入している施設も多く存在する.また,精神科医療分野に従事すると,養成校卒業以降身体疾患へのリハビリテーションを実施していないため,何をして良いか分からないといった問題も生じている.そのため,本研究の目的を,精神科医療領域に従事する作業療法士が身体的リハビリテーションを実施する上での必要な能力は何かを抽出することとする.
【方法】本研究の対象事例は20代後半の女性,精神科作業療法士として4年,急性期総合病院にて疾患別リハビリテーションに従事する作業療法士として2年,合計で6年の臨床経験を積んでいた.選定条件として,養成校での知識や臨床実習経験が想起しやすい比較的若年者であること,また精神科と身体科双方の就労環境を理解していることとし,研究調査期間で協力を得られたのが事例一名であった.データの収集方法は,ビデオ会議アプリケーションであるGoogle Meetを使用し,インタビューガイドに沿った半構造化面接を行った.面接内容は,精神科作業療法士が身体的リハビリテーションを実施するにはどのような能力が必要となるのかについて,教育目標分類学の3領域(知識・技能・態度)から質問し,自由に回答する形をとった.また,研究対象者に許可を得て録画をし,逐語録を作成後,データとした.データの収集期間は2021年6月から同年9月までとした.収集したデータは修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下,M-GTA)を用いて分析した.具体的には,まず語られたデータを読み込み,研究対象者にとってどのような意味を持つのか,データに表現されているコンテキストに留意しつつ解釈を行い,概念を生成した.続けて,概念ごとに分析シートを作成し,発語データ・理論的メモを記載し,概念間の関係性や生成の要因等について検討を行い,サブカテゴリーとした.それぞれの関係性やプロセスを比較検討,上位概念であるカテゴリーを生成し,概念図を作成した.なお,分析は質的研究経験豊富な者の助言を受けながら複数人で行った.倫理的配慮として,昭和大学保健医療学研究科倫理委員会の承認を得てから研究を実施した.(承認日2020年11月18日,承認番号第548号)
【結果】インタビュー時間は35分であった.分析の結果,5個の《カテゴリー》,11個の〈サブカテゴリ―〉,37個の概念が生成された.精神科では,〈身体疾患が起きやすい〉また〈身体疾患に対応しにくい〉,《精神科特有の入院環境》であるため,〈急性発症〉及び〈慢性的なADL低下〉に対する《身体リハの必要性の高さ》が存在する.そのため,作業療法士として必要な能力として,〈身体への影響〉や〈身体の構造〉といった《基礎的な知識》,積極的な〈情報収集〉や〈発信〉をしていく《身体症状に対応する意識を持つといった態度》,治療につなげるための〈正確な検査〉や〈体に触れる〉ことよりも〈観察〉や〈コミュニケーション〉が行える《簡易的な技能》が必要であると推測された.
【考察】精神科医療領域では,一スタッフあたりの担当患者数が身体科よりも多いことから,一人ひとりの患者に対して時間をかけて丁寧に検査や評価をすることが困難であるため,短時間で簡易的に行える方法が抽出されたと考える.本研究は一事例の分析となったが,M-GTAとして概念化を図るには調査期間延長や,対象者の選定基準を再考し,対象者数を増やしていく必要があると考える.