第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-5] ポスター:精神障害 5

2022年9月17日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PH-5-1] ポスター:精神障害 5精神科スーパー救急病棟におけるソーシャルスキルトレーニングの実践

種子 雛乃1芳賀 彩織1河埜 康二郎12遠藤 謙二1 (1医療法人友愛会 千曲荘病院,2信州大学大学院総合医理工学研究科)

【はじめに】
精神科救急病棟において入院期間が比較的短い患者への作業療法介入が求められている.当院では,スーパー救急病棟の入院患者を対象にソーシャルスキルトレーニング(以下,コミュニケーション講座)を実施している.しかし,対象となる患者は入院期間が短いことに加えて年齢や疾患名などの属性が多様であることから,集団の特性を生かしたプログラム運営に難渋することがある.今回の報告の目的は,コミュニケーション講座の概要を紹介しその有効性や課題を検討することである.なお,学会発表に際し当院倫理委員会の承認を得た.
【対象と方法】
コミュニケーション講座は2週に1回,1時間~1時間半,スーパー救急病棟(48床)の開放病棟食堂で実施した.1回につき参加者1~10名に対し,病棟担当のOTR2名と病棟看護師1名の計1~3名で対応しており,OTRがリーダーとなり講座を進行した.オープングループで,必要に応じてOTRが声かけするなどして参加者をリクルートした.入院期間を考慮して1クール5~7回とし,「人との距離感」や「相談の仕方」,「自分の特徴を伝える」など,対象者に合わせてテーマを決定した.内容は参加者同士のディスカッションを主とし,リーダーは話がテーマから多少脱線しても制止せず,気軽に発言・参加できるように配慮した.また,少し離れた場所から見学参加も可とし,のちに個別フォローで対応した.個別フォローはベッドサイドや個人OTの時間に実施し,コミュニケーション講座の振り返りと実生活への般化の検討を行った.2019年7月~2022年1月にコミュニケーション講座に参加した患者を対象に,性別,年齢,疾患名,参加回数を調査した.
【結果】
対象患者は71名(男性27名,女性44名)で,平均年齢は49.82±16.07歳,疾患は統合失調症19名,気分障害28名,知的障害8名,発達障害4名,アルコール依存症4名,その他8名であった.一人あたりの平均参加回数は2.35±1.89回であった.
【事例紹介】
30代後半,女性,軽度知的障害(IQ60).別居をしていた家族が亡くなって情緒不安定となり,当院に2回目の入院となった.病棟やOTでは,適切に困っていることへの状況・心境を伝えることができず,不安・焦燥感が強まり,さらに職員への頻繁な確認行為や相談につながり,職員の疲弊も生じていた.講座に参加し,講座中は「相談しすぎている」「依存的になっている」との内省もみられたが,具体的にどう相談すればよいか分からないとの発言もあった.そこで「相談すること」に対して相談フォーマットの作成と他職種との連携,振り返りを個別フォローとして行った.結果,枠組みを意識した明確な相談が可能になり,職員も本人の状況を把握した支援が可能になった.
【考察】
今回の結果から,コミュニケーション講座の参加者は女性が多く,平均年齢が約50歳であり,気分障害の者が多いことが分かった.香山(2014)は早期介入の基本原則は「本人の認識できる困りごとに焦点をあてる」ことであると述べている.今回の結果を踏まえ,主婦や親の介護といった役割関係に着目したコミュニケーションスキルの練習を取り入れる必要があるかもしれない.一方で,参加者の年齢層が比較的高いため,新たなスキル習得よりも集団内での安心感や共感性を促進させるような現在の治療構造を引き続き設定する必要もあると思われた.事例の経過からは,より個別性の高い介入がコミュニケーション講座の有効性を高める可能性が示唆された.