第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-5] ポスター:精神障害 5

2022年9月17日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PH-5-5] ポスター:精神障害 5神経性やせ症の児をもつ家族に対する集団家族心理教育

作業療法士が関わるメリット

中野 未来12田中 佐千恵3白石 健145公家 里依5小林 正義3 (1信州大学大学院総合医理工学研究科医学系専攻医学分野,2信州大学医学部附属病院リハビリテーション部,3信州大学医学部保健学科,4信州大学医学部附属病院精神医学教室,5信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部)

目的
 近年,小児の神経性やせ症(AN)の患者が増加しており,児を取り巻く環境としての家族の関わりは,治療の重要な要素となる.しかし,家族のなかには児との関わり方に悩む者も多く,精神面に不調を来す場合もある.家族に対する心理教育に関する研究は少なく,医師や臨床心理士が関わることが多く,作業療法士(OTR)が関与した報告は見当たらない.また,心理教育のアウトカムとして,家族の健康度やQOLに焦点を当てた研究はほとんどない.本研究の目的は,AN児をもつ家族を対象に多職種で集団心理教育を行い,抑うつ症状,健康度やQOLの変化を調査するとともに,OTRが関わることの利点を検討することである.本研究は本学医倫理委員会(4524)の承認を得た.
対象と方法
 2020年12月から2022年2月に当院の小児科・精神科・子どものこころ診療部に通院,または入院した19歳以下のAN児をもつ家族を対象とした.集団家族心理教育は1回1時間×週1回の頻度で全4回実施し,各回は前半の講義と後半のフリーディスカッションで構成した.プログラムの司会と,ディスカッションのファシリテーターをOTRが担い,医師,管理栄養士,臨床心理士が講師またはスタッフとして参加した.講義のテーマはANについて,治療や経過,食事と栄養,家族の関わり方であった.OTRは作業バランスの視点を説明し,児が病気から離れる時間を確保することの重要性を伝えた.また,児が実際に飲んでいる栄養剤の試飲を行い,体験の共有化を促した.事前・事後評価として家族の抑うつ症状(QIDS-J),QOL(SF-36),プログラム満足度(アンケート),児の標準体重比を測定した.なお,児に対しては,本研究期間の前または並行して個別のOTを実施した.
結果
 参加家族は母親4名,父親1名の計5名,平均年齢は47.2歳であった.対象の児は4名(女性,平均13.8歳,外来1名,入院3名)で,平均標準体重比(前→後)は76.4%→76.3%で変化はなかった.QIDS-Jは9.4→7.2とやや改善した.SF-36は全体的健康感が58.2→60.0,日常生活機能(精神)が71.7→80.0,心の健康が46.0→56.0,精神的健康度が41.8→45.9と向上した.開始前のアンケートでは,児との関わり方,今後の不安が多く記されていたが,終了後には,関わり方や将来への不安が具体的に記されていた.満足度は大変満足が40%,やや満足が60%で,ANの知識を得たことで児の状態を再確認できたこと,具体的な関わり方を知れたことが満足の理由として挙げられた.1〜2回目は家族同士の交流は少なく,栄養剤の試飲という共通の作業を通して会話が始まり,3回目以降は家族同士の自然な交流が促進された.また,児に対するOTの活動内容に興味をもつ者が多く,OTRに児の様子を尋ねたり,“OTが疾患から離れられる時間になっている”との発言もみられた.
考察
事前評価のQIDS-Jから家族は軽度の抑うつ症状を有することが分かった.事後評価では家族の抑うつ状態と精神的健康度は改善傾向を示しており,集団家族心理教育によりANに対する正しい知識や児への関わり方を学ぶことで,今後の治療や経過に見通しがもてたり,他家族との交流から“自分だけではない”と感じられたりしたことが,家族の精神的健康度やQOLの向上に寄与したと考えられた.OTRが心理教育に関わることで,児の健康的な生活機能について家族と情報共有しやすくなり,さらに家族相互の交流を促進しやすいというメリットがあると思われた.