第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-6] ポスター:精神障害 6

2022年9月17日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PH-6-1] ポスター:精神障害 6精神障害を抱える親とその子どもへの支援を考える

グループワークの試み

吉原 絵理1平野 貴子1堀江 章代1中西 彩乃1牧村 幸恵2 (1特定医療法人楠会 楠メンタルホスピタル,2にじいろアトリエ)

【はじめに】
 親の精神障害が子どもの成長発達に大きな影響を与えることは以前から指摘されている.先行研究によると,このような親子は社会から孤立しており,誰にも話せない子どもたちは生活の困難に圧倒されていると報告され,子どもたちへの支援の必要性が示唆されている(長江ら,2013).当院ではそのような子どもに着目し,2018年より精神障害を抱える親とその子どもを対象としたグループワーク(通称『おやこの会』)を開催している.今回,これまでの実践経過をまとめ今後の課題を検討したので報告する.
【概要】
 『おやこの会』は,親グループ,子どもグループに分かれてグループワークを実施している.親グループは,子育てについての悩みを互いに相談し,病気や家族との付き合い方をメンバーで考えている.精神障害を抱えながら子育てすることの大変さを分かち合える場を作り,悩みながらも子育てをしていけるよう支援することを目的としている.子どもグループは,スタッフに見守られながら塗り絵や工作などの自由な表現活動をしており,用意された道具材料は何をどんな風に使ってもいいと保障された環境にするよう留意している.大人に見守られていると感じる場を作り,将来の精神的問題(孤独・孤立感,親の病気との向き合い方,発症リスクなど)を予防することを目的としている.スタッフは作業療法士,精神保健福祉士,臨床心理士と多職種で,色彩心理カウンセラーも参加し,子どもの表現活動にあらわれる子どもの情緒面や状況をまとめ,それらを共有している.親グループには毎回終了時にアンケートを行っている.なお,発表に際して対象者には同意を得ている.
【結果】
 開催は年に2~3回,夏休みや春休み等の長期休暇中に設定し,2021年12月までに8回開催した.親グループ参加者は平均4.3名,平均年齢38.7歳で,全員女性で診断名はうつ病,双極性感情障害,統合失調症,情緒不安定性パーソナリティ障害,軽度精神遅滞など様々であった.子どもグループ参加者は平均3.5名,平均年齢6.1歳(3歳-11歳)であった.親グループでは主に子どもや配偶者との関係性,病気との付き合い方等の話題が出た.感想では,「同じ立場の方と話ができて良かった」「みんな同じ悩みを抱えながら乗り越えてきている,安心した」等の意見が聞かれた.子どもグループでは,最初は緊張している様子の子も次第に自由な表現活動を楽しむ姿がみられ,絵の具や紙粘土,木片等あらゆる道具材料を使い「何をしてもいい」という感情表出もみられた.毎回楽しみに参加してくれる子どもが増え,グループ内で病気の親のことをスタッフに話す子どももみられるようになった.
【考察】
 今回,精神障害を抱える親と子どもへの支援としてグループワークを行った.少しずつ子どもたちの感情表出が増えていく様子がみられ,子どもへの支援において,継続して参加してもらうことでスタッフとの関係性を築き,安心して表出できる場を作ることが必要であると感じられた.一方,参加人数の少なさ,子どもの年齢の幅が大きく,特に年齢が高い子どもへのアプローチが難しいこと,親の病気の説明など心理教育的介入ができていないことなど課題が残る.
 今後は,子どもへの支援の仕方をさらに検討するとともに,支援対象を地域に広げ,地域機関とも連携していくことが必要であると考える.