第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-6] ポスター:精神障害 6

2022年9月17日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PH-6-3] ポスター:精神障害 6精神障害者の働く経験に着目した先行研究調査

嶋川 昌典1 (1びわこリハビリテーション専門職大学)

【はじめに】
 障害の有無に関わらず人は働くことを通して成長する為,精神障害者が働いた経験をどう意味づけるか,その経験による成長過程を精神科作業療法士が理解することは重要と考える.この領域は就労支援の中で扱われているが,そこでは支援方法,介入効果の検証,連携のあり方といった支援者側の視点が多い.精神障害者の働く経験の意味づけ,その変化の過程を扱った研究は多くないかもしれない.そこで本調査の目的は,福祉事業所や一般企業で働いた経験のある精神障害者,彼らの働く経験に着目した先行研究を概観し,そこで明らかにされたこと,未解明な部分を示す.
【方法】
 データベースはJ-Stage,CiNiiとし,検索ワードは「精神障害者」and「働く」,対象期間は2002年から2021年の20年間とした.学会抄録や解説,タイトルや要旨から調査対象が精神障害者の働く経験やその認識に着目していない文献は除外した.幅広く先行研究を捉えるため,特定の疾患は設定しなかった.働く経験とは,福祉事業所,一般企業で過去,現在,働いた経験とした.検索日は2022年1月13日,抽出した文献は調査協力者の疾患が明確な文献群(以下,明確群)と不明確な文献群(以下,不明確群)に分け,各群の文献を目的,方法,結論の項目で整理した.
【結果と考察】
 検索の結果はJ-Stage650件,CiNii75件であり,除外後の文献数は計21件であった.調査協力者の明確群は11件,内訳は統合失調症者を主にしたものが9件,自閉スペクトラム症者1件,若年性認知症者1件であった.不明確群は10件であり,内訳は福祉事業所(就労継続B型,生活支援センターなど)の利用者6件,一般企業で働く方2件,その他2件であった.
 明確群の特徴は以下であった.統合失調症者を扱ったものは,働く経験は症状の安定化,そこでの対人関係の重要さを示すものであった.働けることよりもそこでの対人関係の方がリカバリーに影響するという報告もあった.重要な対人関係とは家族,友人,支援者を示し,職場内の対人関係も重要であるが,具体的な関わりは不明であった.自閉スペクトラム症者の場合は職場での対人関係は障害特性の理解に必要とされ,若年性認知症者の場合は自分の能力でできる働く場を見つけたいという思いが報告されていた.働く経験の認識は疾患による特徴が見られた.
 不明確群の特徴は,福祉事業所の対象者は,症状の安定化,そこでの対人関係が重要という報告であった.また,疾患特性があるが故に,彼らなりの社会適応形式があり,その理解が社会の側に必要という報告もあった.これらの結論に至った背景には,統合失調症や重い精神障害者の働く経験を扱った結果と考えられた.一方,一般企業で働く精神障害者を扱った報告は,働くことでソーシャルスキルや自我機能の向上が定量的評価から見られるとの報告があった.比較的軽度な精神障害者を対象としていたと考えられるが,精神障害者が企業で働くことで福祉事業所の場とは異なった形で彼らの諸機能の改善をもたらす事が示唆された.
【まとめ】
①疾患によって働く経験の意味付けの違いが明らかにされていた.統合失調症者は人との関わりでの気づき,自閉症スペクトラム症者は障害特性を学ぶ機会,若年性認知症者は可能な限り働きたい思い,という違いであった.②未解明な部分は,一般企業で働く精神障害者がいかに職場内の対人関係を通して,彼ら自身の特性の理解や認識の変化が生じるのかに着目した研究である.精神障害者の就労支援が社会的に注目されていることから,今後,一般企業で働く方は増加する.その為,彼らの職場内での対人交流に焦点をあてた研究が重要と考えた.