第56回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-7] ポスター:精神障害 7

Sat. Sep 17, 2022 1:30 PM - 2:30 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PH-7-1] ポスター:精神障害 7価値ある作業の提供により,不穏が消失した症例

川上 依里子1 (1医療法人十全会 十全病院作業療法室)

【はじめに】前病院に対する転院願望から不穏状態が続いてた症例に対し,本人にとって価値のある作業が行える環境を設定し,不穏の消失に繋がるようアプローチした.その結果,不穏状態は消失し,新たな作業へと興味も拡大したため,考察と共に,報告する.今回の発表にあたり本人には説明の上同意を得ている.
【症例紹介】60代女性.中等度知的障害(F71),統合失調症(F209),生来性の難聴あり.X-3年結婚,その後離婚を機に発症(X年).A,B,C病院で入退院を繰り返す.X+30年当院転院.
【OT評価】入院+5日OT開始.前病院への転院願望が強く,大声,感情失禁,病棟入口前から離れない等の不穏状態が続く.開始時はOT中も「C病院に帰りたい寂しい」と感情失禁,「迎えが来ている」と終了時刻前に中断し退室してしまう事があった.コミュニケーションと交流技能評価(ACIS)60/80点.こちらで思いを汲み取る必要があり,また難聴のため筆談使用.
【問題点】転院願望による不穏行動がある.【目標】作業を通して,気分の安定を目指す.
【方法】1種目は帽子編みを提供.毎回同じ色と形で同じ帽子を作成しており,本人にとって価値のある作業と考える.複数作成後,本体には変化を加えず,装飾品を追加する形で新たにボンボン作りを追加.2種目には裁縫を提供.私物の鞄の補修が本人より希望があったタイミングで,固執していた帽子以外への興味拡大の機会だと判断しOTから裁縫の作品を紹介.本人がイメージしやすいような作品見本を提示する事で抵抗なく受け入れる.本人が理解し安心出来るような提示の仕方で関わった.完成時にはOTは笑顔や拍手等視覚的な表現を用いて称賛し,成功体験が得られるよう努めた.
【経過】介入から7日目,感情失禁や途中退室は消失.終了時刻を超えても作業を継続する.10日目からボンボン作成.323日目から裁縫作業を提供開始.387日目からは「難しいけど面白い.今はこっちの方が好き」と裁縫を続けた.他者への完成品を披露する場面も増える.病棟では介入126日目まで不穏状態が続いたが,その後は転院願望の表出のみで落ち着く.144日目以降「編み物まだか.早く行きたい」と出療を楽しみに病棟入口で待機する事が増える.
【結果】転院願望自体はあるが,行動化までする不穏状態は消失.意志質問紙(以下,VQ)帽子39→50/56点に変化.作業に対する意志の向上が見られた.固執していた帽子以外の作業へ興味の幅も拡大した.裁縫のVQ鞄49/56点,ポーチ52/56点,シュシュ52/56点.
【考察】価値観は環境の影響を大きく受け,欲求段階に大きく依存しており,上の段階へ移行する場合は,一段階もしくは二段階以上の欲求が満たされる環境作りと成功体験が必要となる1).症例は転院後の不慣れな環境下で孤独感や不安が強く,安全欲求~所属・愛情欲求の段階が満たされていないことから不穏状態に至っていたと推測する.今回,本人が高い価値観を持っている作業から提供し,その作業を取り組むことができるOT室が,安心できる環境,本人の所属している場だと認識され,所属する環境の中で,よりよい作業的存在になれたのではないかと考える.さらに作品を他者から称賛されたことが成功体験となり,より上の段階の欲求である承認欲求,さらに新しい作業へ取り組む認知欲求に繋がり,不穏状態は消失したと考える.
【参考文献】
1)藪脇健司:高齢者のその人らしさを捉える作業療法,株式会社文光堂,pp73-79,2015