[PH-7-2] ポスター:精神障害 7コミュニケーション能力向上目的の作業療法
境界域知的障害をもつ適応障害の入院患者に対して
【はじめに】知的障害の作業療法(OT)評価は,対象者の実際の能力発揮が困難になる不慣れなテスト状況は避け,評価手順や実施方法を工夫し,信頼関係を築くことが大切とされる1).適応障害と診断された境界域知的障害事例に対し,OT場面の観察評価に基づく関わりによりコミュニケーション能力とその満足度が向上した.知的障害の事例に対する観察評価と意思表出を助けることの重要性を報告する.事例から報告の同意を得ている.
【事例紹介】10歳代後半,男性,適応障害,10歳時に軽度知的障害と診断された.人と話すのが苦手で不登校を繰り返し,高校時友達ができずリストカットをして休学した.神経内科を受診したが気分低下や希死念慮は続き,家族の希望で入院した.入院1ヵ月後,希死念慮は消失したが家族の心配が強く退院困難だった.リストカットの背景と考えられるコミュニケーション能力の改善を目的にOT開始した.退院時WISC-Ⅳは全検査IQ75(言語理解64,知覚推理95,作動記憶85,処理速度76)で境界域知的障害であった.
【OT評価と介入方針】日中は自室に籠り,特定の患者のみと交流し,表情は暗く変化に乏しかった.意思表出の困難さが目立ち,スタッフに用があると近づくだけで話さず,周囲が代弁したりした.一方で作業療法士(OTR)が待てば,どうにか質問に応えた.そこで事前にOTの目標を考えておくよう伝えた.面接中,数十秒経っても返答がない際は,クローズドクエスチョンや選択肢の使用,5W1Hを書きながら表現の促しを試み,評価を続け,回答を翌日に持ち越す方法なども提案し,事例の意思表出ができるよう工夫した.「誰にでも自分から話しかけられる(COPM重要度10,遂行度6,満足度1)」をOT目標として合意した.プログラムは集団OT(週2回)とパラレルOT(週3回)で,「プログラム時に担当OTRへ自分から挨拶をしてシールをもらう」を短期目標(1週間)とした.シールは達成度の確認のため使用した.
【OT経過(全9週)】OTでの挨拶の対象は担当者から全員に拡がり,さらに「毎日5人の看護師(Ns)に自分から挨拶をしてハンコをもらう」を新たな短期目標(2週間)とした.目標達成度を振り返る面接では,意思を聴き取るため待つこと,方法の工夫を継続した.事例は「挨拶はできたけどハンコを頼めなかった」「待ってもらわず,自然に挨拶できるようになりたい」と述べ,その後これらを目標にした.介入8週目にはOTRやNsに自ら声をかけ,言葉は拙いものの報告・連絡・相談できるようになった.日中は自室にいることが減り,デイルームで不特定の患者とボードゲームを楽しみ交流するようになった.表情は明るく,コミュニケーション場面で笑顔もみられ,事例もこれを自覚していた.
【結果】「退院したらデイケアに行きたい」という今後の希望を述べ,外泊後退院した.COPM重要度10,遂行度9,満足度10であった.
【考察】今回,境界域知的障害と適応障害をもつ事例に対し,OT場面の観察評価を基に,事例の意思表出を可能にする方法を様々に試みながら使用できる方法を提案し,時間をかけて関わった.退院時WISC-Ⅳの結果からも,時間的余裕を作ることや表現の工夫が事例にとって有効だったと考えられる. OTに対する信頼と共に,事例の意思を反映したOT計画が立案でき,事例が取り組みを継続し,コミュニケーションの範囲が広がり,遂行度や満足度も向上した.コミュニケーションの対象をNsへ広げたことは,獲得した方法の日常場面への活用を助け,遂行度や満足度の向上に繋がったのではないかと考える.
【参考文献】1)新宮尚人(編):精神機能作業療法学第2版,医学書院,2020
【事例紹介】10歳代後半,男性,適応障害,10歳時に軽度知的障害と診断された.人と話すのが苦手で不登校を繰り返し,高校時友達ができずリストカットをして休学した.神経内科を受診したが気分低下や希死念慮は続き,家族の希望で入院した.入院1ヵ月後,希死念慮は消失したが家族の心配が強く退院困難だった.リストカットの背景と考えられるコミュニケーション能力の改善を目的にOT開始した.退院時WISC-Ⅳは全検査IQ75(言語理解64,知覚推理95,作動記憶85,処理速度76)で境界域知的障害であった.
【OT評価と介入方針】日中は自室に籠り,特定の患者のみと交流し,表情は暗く変化に乏しかった.意思表出の困難さが目立ち,スタッフに用があると近づくだけで話さず,周囲が代弁したりした.一方で作業療法士(OTR)が待てば,どうにか質問に応えた.そこで事前にOTの目標を考えておくよう伝えた.面接中,数十秒経っても返答がない際は,クローズドクエスチョンや選択肢の使用,5W1Hを書きながら表現の促しを試み,評価を続け,回答を翌日に持ち越す方法なども提案し,事例の意思表出ができるよう工夫した.「誰にでも自分から話しかけられる(COPM重要度10,遂行度6,満足度1)」をOT目標として合意した.プログラムは集団OT(週2回)とパラレルOT(週3回)で,「プログラム時に担当OTRへ自分から挨拶をしてシールをもらう」を短期目標(1週間)とした.シールは達成度の確認のため使用した.
【OT経過(全9週)】OTでの挨拶の対象は担当者から全員に拡がり,さらに「毎日5人の看護師(Ns)に自分から挨拶をしてハンコをもらう」を新たな短期目標(2週間)とした.目標達成度を振り返る面接では,意思を聴き取るため待つこと,方法の工夫を継続した.事例は「挨拶はできたけどハンコを頼めなかった」「待ってもらわず,自然に挨拶できるようになりたい」と述べ,その後これらを目標にした.介入8週目にはOTRやNsに自ら声をかけ,言葉は拙いものの報告・連絡・相談できるようになった.日中は自室にいることが減り,デイルームで不特定の患者とボードゲームを楽しみ交流するようになった.表情は明るく,コミュニケーション場面で笑顔もみられ,事例もこれを自覚していた.
【結果】「退院したらデイケアに行きたい」という今後の希望を述べ,外泊後退院した.COPM重要度10,遂行度9,満足度10であった.
【考察】今回,境界域知的障害と適応障害をもつ事例に対し,OT場面の観察評価を基に,事例の意思表出を可能にする方法を様々に試みながら使用できる方法を提案し,時間をかけて関わった.退院時WISC-Ⅳの結果からも,時間的余裕を作ることや表現の工夫が事例にとって有効だったと考えられる. OTに対する信頼と共に,事例の意思を反映したOT計画が立案でき,事例が取り組みを継続し,コミュニケーションの範囲が広がり,遂行度や満足度も向上した.コミュニケーションの対象をNsへ広げたことは,獲得した方法の日常場面への活用を助け,遂行度や満足度の向上に繋がったのではないかと考える.
【参考文献】1)新宮尚人(編):精神機能作業療法学第2版,医学書院,2020