第56回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-7] ポスター:精神障害 7

Sat. Sep 17, 2022 1:30 PM - 2:30 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PH-7-4] ポスター:精神障害 7作業活動により援助希求感と作業機能障害が改善した慢性期統合失調症者の症例

割箸アートを通して

北田 有沙1浜田 実瑠1藤田 周平2大類 淳矢3田中 寛之4 (1東香里病院,2東香里第二病院,3大阪河﨑リハビリテーション大学,4大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科)

【はじめに】精神疾患患者の退院支援にあたり他者への援助希求感の乏しさや,作業機能障害が退院の阻害要因となる事がある.今回,援助希求感の乏しさによる作業機能障害が認められた事例に対し,割箸アートを通して介入した.その結果,これらの問題が改善され,退院時の生活の希望まで語るなどの変化が認められたため,介入時の工夫した点とその経過について報告する.本発表については対象者へ説明し同意を得ている.
【症例紹介】A氏,70代,男性,統合失調症.大学時代から妄想,奇異行動あり.X-37年に交番に放火,A病院措置入院.16年後退院したが路上で暴行事件を起こし,緊急措置入院.X-2年に咽頭の悪性腫瘍をB病院で切除するなど,精神科と内科の入退院を繰り返し,X年Y月Z日に当院に入院.内科的状態が安定したため 作業療法が開始された.
【初期評価(入院111日後から335日後)】当初のA氏は近寄りがたい印象であった.自ら話しかける事はなく,周囲との関わりを避けている状態であった.また,作業が行き詰まるとOTRに援助を求められず,自己判断で進める事もあった.他の評価として,リカバリープロセスを評価するRecovery Assessment Scale(以下,RAS),意味のある作業を選択するためのAid for Decision-making in Occupation Choice(以下,ADOC),作業機能障害を評価するScreening Tool for the classification of Occupational Dysfunction(以下,STOD)を実施した.RASでは,合計62/120点であり,特に「手助けを求めるのをいとわないこと(12/20点)」の得点が低かった.ADOCで挙げられた項目(重要度/満足度)は,食事(3/5),炊事(3/5),入浴(1/5),洗濯(1/5),排泄(1/5)であった.STODでは,合計58/84点であり,全般的に作業遂行機能障害が認められた.
【問題点の抽出と介入方針】本症例は,これまでにおいても他者に手助けを求めずに自己中心的に判断し,生活が破綻することを繰り返していた.作業療法場面でも周囲と関わりを避け,他者に援助を求められない援助希求感の乏しさと,それに起因する作業機能障害が課題として挙げられた.以上より,援助希求感の改善を目的に介入する方針とした.
【介入経過】作業療法士(OTR)と協業し信頼関係を構築した時期(入院335日後から387日後):OTRを含めた他者と交流の機会を確保する為に割箸ランタン作りの作業を実施した.OTRは協業相手として関わった.症例からOTRの生活について尋ねる等他愛ない会話が増え,「退院したい」という発言も聞かれるようになった.
援助希求感を高めるために作業環境を工夫した時期(入院388日後から522日後):難易度が高く援助が必要な割箸金閣寺作りの作業を実施した.OTRはA氏から援助を求める状況を増やすために物理的距離を置いた.症例は作業の不明点を自ら尋ね,援助を求めるようになった.
【再評価(入院523日後)】RASでは,61/120点であり介入の標的としていた「手助けを求めるのをいとわないこと(14/20点)」で改善を認めた.ADOCでは,初期評価時に挙がった項目に加え,健康管理(2/5),公的機関利用(1/5)も選択され,本人にとって意味のある作業や退院後の生活を見据えた内容に変化した.STODでは,46/84点と改善された.
【考察・まとめ】﨑本ら(2017)は,作業機能障害に焦点を当てたOTRとの作業活動の協働的な介入が,対象者の地域生活を見据えた内省・行動の変化が認められた事例を報告している.本症例においても,OTRとの協業と援助の程度を段階付けした介入によって,援助を求める事への抵抗が減少して作業機能障害が改善し,退院後の希望まで述べることができるようになった.