第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-8] ポスター:精神障害 8

2022年9月17日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PH-8-1] ポスター:精神障害 8精神科急性期入院治療による統合失調症の認知機能及び精神症状の改善度

稲垣 佑輔12小林 正義1花岡 敏彦2埴原 秋児2 (1信州大学大学院医学系研究科,2長野県立こころの医療センター駒ヶ根)

【はじめに】精神科では入院期間を3ヶ月以内とする急性期医療の充実が推進されている.入院治療では薬物療法,精神療法,作業療法,心理教育,修正型電気けいれん療法などが実施されやすいが,統合失調症の認知機能障害がどの程度改善されるかは明らかではない.本研究の目的は,精神科急性期入院治療によって統合失調症患者の認知機能障害と精神症状がどの程度改善するかを調べることである.
【対象と方法】2018年12月から2021年8月までに精神科急性期治療病棟に入院し,統合失調症または統合失調感情障害と診断され,研究参加に同意した患者を対象とした.入院後に事前評価を,退院時または入院3ヵ月後に事後評価を実施し, Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia(BACS), Positive and Negative Syndrome Scale(PANSS), Global Assessment of Functioning(GAF)のスコアを前後比較した.評価尺度と抗精神病薬の服用量(chlorpromazine換算)の前後比較には対応のあるt検定を用いた.事前評価と事後評価の差分(変化量)を求め,尺度間でスピアマンの順位相関係数を求めた.有意水準は5%とした.本研究は所属する大学と病院の倫理審査委員会の承認を得た.
【結果】調査期間内に入院した統合失調症または統合失調感情障害の患者は196名,研究参加に同意した53名のうち,事前・事後評価を終了した50名(男:女=21:29)を分析対象とした.対象者の年齢は40.6±11.2歳,入院期間は64.9±25.3日であった.服用量(事前/事後)は492.34 /681.01mg / day(p < 0.01),BACS z-scoreの平均は言語性記憶-1.80 / -1.75,作動記憶-1.65 /-1.36,運動機能-1.56 / -1.36,言語流暢性-1.51 / -1.36,注意と処理速度-1.46 / -1.23,遂行機能-0.82 / -0.30,総合得点-1.47 / -1.23で,作動記憶,注意と処理速度,遂行機能,総合得点で有意差を認めた(p < 0.01).PANSSは陽性症状26.24 / 17.52,陰性症状22.36 / 18.92,総合病理47.50 / 38.42,合計得点98.68 / 74.86で有意な改善を認めた(p < 0.001).また,BACS言語性記憶の変化量は,PANSS総合病理と合計点の変化量と負の相関(ρ= -0.37, -0.30, p < 0.05)を示した.
【考察】BACS z-scoreは-0.5≦<-1.0で軽度,-1.0≦<-1.5 で中等度,-1.5≦で重度の障害と判定され,事前評価の結果から,対象者は「軽度」~「重度」の認知機能障害を有した.また,PANSSの結果から対象者は「軽度」または「中程度」の陽性・陰性症状を有しており,入院後の不安定な精神症状が認知機能の低下に影響していた可能性がある.約2ヶ月の入院治療によって陽性症状と陰性症状はともに「ごく軽度」または「軽度」に,またGAFの結果から,機能の全体的評定も「中等度」から「軽度」の症状レベルに改善した.一方,認知機能の改善はわずかで,患者は退院時においても「中程度」の認知機能障害を有しており,精神症状の改善は認知機能の改善に先行する可能性が示された.言語性記憶の変化量は,PANSSの総合病理と合計点の変化量と負の相関を示した.入院時と6週後,また入院時と12週後に認知機能と精神症状を評価した先行研究では,精神症状の改善による言語性記憶の向上が報告されており(Hagger et al.1993,Trampush et al. 2015),言語性記憶は精神症状の改善を反映しやすい認知領域と思われた.