第56回日本作業療法学会

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ポスター

発達障害

[PI-1] ポスター:発達障害 1

Fri. Sep 16, 2022 12:00 PM - 1:00 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PI-1-1] ポスター:発達障害 1Williams症候群児における就学前後での生活能力向上の特徴:縦断的事例研究

高橋 香代子1平田 樹伸2前場 洋佑1陳松 歩実1天野 暁1 (1北里大学医療衛生学部,2埼玉医科大学総合医療センター)

【はじめに】Williams症候群(以下WS)は,発生頻度が約20,000人に1人と極めて希少な遺伝子症候群であり,軽度から中等度の知的障害,過社会性,不安症,注意障害などの症状を呈するとされる(松村, 2013; 清水, 2016; 高橋ら, 2018).そのため,WS児では,運動や操作,言語能力や社会的機能といった日常生活能力においても,生活年齢と発達年齢の間に2〜3.5歳の差がみられることが示されている (高橋ら, 2021). 一方,WS児においても様々な生活能力が年齢に応じて徐々に発達していくことが考えられるが,その発達の特徴を縦断的に検証した先行研究は散見されない.
【目的】本研究では,WS児1例に対して就学前から5年間にわたる縦断的調査を実施し,WS児の生活能力向上の特徴を明らかにすることを目的とした.
【方法】本研究は単一症例に対する,縦断的観察研究である.対象児(以下A児)は,初回調査時4歳の女児で,療育手帳はB2,心室中隔欠損の合併症を有する.調査はA児が幼稚園年中から小学校支援級3年生までの5年間に渡り毎年実施された.生活能力の評価としては,リハビリテーションのための子どもの能力評価表(以下PEDI)を用いた.PEDIは,セルフケア・移動・社会的機能の3つの下位領域,計197項目で構成されており,日常生活上で必要とされる能力のレベルを数値化するものである.結果は,尺度化スコア(0〜100点で,点数が高いほど子どもの能力は高い)と,基準値標準スコア(同年齢児の平均50点との相対的な関係を示し,30〜70点が正常範囲)で示される.本研究では,それぞれの調査時のPEDIスコアの推移から,WS児における発達の特徴を検討した.なお,本研究は北里大学医療衛生学部倫理委員会の承認を得て実施した(2016-027).
【結果】A児は,1年目(幼稚園年中, 4歳8ヶ月)→2年目(幼稚園年長,6歳1ヶ月)→3年目(小学校支援級1年,6歳7ヶ月)→4年目(小学校支援級2年,7歳6ヶ月)→5年目(小学校支援級3年,8歳9ヶ月)の全ての期間においてPT・OTを年2〜3回受け,就学後は放課後等デイサービスを週3〜5日利用していた.それぞれの調査時のPEDIの尺度化スコアは,セルフケアが67.6→70→74.7→73.6→79点,移動が70.1→79.8→85.2→94.2→94.2点,社会的機能が55.4→59.2→65.1→65.1→68.9点と推移していた.一方,PEDIの基準値標準スコアは,セルフケアが32.2→18.3→35→11.8→20.8点,移動が12.2→10未満→10未満→29.9→29.9点,社会的機能が22.7→16.9→28→29.6→33.2点と推移していた.
【考察】WS児の生活能力(PEDIの尺度化スコア)は,年齢と共に徐々に向上していた.これらの要因としては,小学校では通学や校内移動など階段昇降や長時間歩行の機会が増えたことや,放課後等デイサービスなどで他児との交流が広がったことなどが考えられる.さらに,支援級へ進学したことにより,より個別性の高い支援や指導を受けられたことも能力向上の一因と考えられる.
一方,PEDIの基準値標準スコアは,5年間を通して同年齢児の正常範囲の下限である30点を下回っており,定型発達児に比べるとWS児の生活能力は低く,生活の中でつまずきを抱えている可能性が示された.そのため,WS児においては個々の能力に合わせた支援が就学後も必要となることが示唆された.
【結語】WS児1例の就学前後5年間にわたる追跡調査の結果,定型発達児と比較すると生活能力は全般的に低いものの,年齢を追うごとに徐々に能力が向上することが示された.WS児の潜在的な能力を最大限に伸ばすためにも,個別性を生かした適切な支援を適切な時期に行う必要性が改めて示唆された.