第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-1] ポスター:発達障害 1

2022年9月16日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PI-1-3] ポスター:発達障害 1健常学齢児における拇指-示指タッピングと線引き課題の加速度分析との関連

中島 そのみ1吉田 彩華2池田 千紗3仙石 泰仁1 (1札幌医科大学保健医療学部作業療法学科,2北海道医療大学リハビリテーション科学部 作業療法学科,3北海道教育大学札幌校特別支援教育専攻)

【はじめに】我々は,外部音に合わせて拇指-示指タッピングを行う運動協調性評価(以下,タッピング評価)と,上肢機能の1つである線引き課題との関連について研究を行っている.これまで,線引き課題では,はみ出し距離,運筆速度,基線からずれの大きさや回数を指標とし,タッピング評価の「拇指-示指間の距離のずれ率」や「音-タイミングのずれ率」と関連があることを報告してきた(中島ら,2020,2021).タッピング評価は運動制御能力を反映すると考えられており,線引き課題においても運動制御の指標とされる加速度を指標とした検討が更に必要と考えた.そこで,本研究では運動制御の一側面とされる運動の滑らかさについてその指標とされる筆記具操作時の加速度(以下,運筆加速度)を用い,タッピング評価との関連を検討した.
【方法】対象は本研究への協力に同意が得られた右利きの健常学齢児20名(3~6年生)とした.タッピング評価は1,2Hzの外部音に合わせ拇指-示指間を対象者の示指長で開くよう教示し,練習を行ってから30回ずつ実施した.指の動きはタブレットトラッカーTT-Z(株式会社ライブラリー)で撮影し,タッピング速度と拇指と示指の指間距離を計測した.線引き課題は,タブレットPC上で実施する2本の線で描かれた正三角形の罫線間内にペン型マウスで線を引く課題で,外側の正三角形の1辺は10cm,罫線間は3mmとした.対象児には「罫線間からはみ出さないように」と教示し,数回練習の後,本人の運筆しやすい肢位で3回実施した.
【分析方法】タッピング評価の指標は,次の3つを指標とした.①音-タイミングのずれ率:|タッピングした時間-外部音を提示した時間|÷外部音の間隔(時間)×100,②タッピング速度のずれ率:|タッピング速度-外部音の速度|÷外部音の速度×100,③距離のずれ率(タッピング時の拇指と示指を開く指間距離のずれ):|測定距離-基準の距離|÷基準の距離×100.線引き課題の運筆加速度は,ペン型マウスの移動加速度の度数分布を作成し,0.1cm/s2毎の割合を算出した.対象者20名の加速度分布は8~9割が-0.09~0.09の間にあったため,その相対割合を指標とした(以下,運筆加速度の割合).よって,運筆加速度の割合の数値が小さいほど,急な(なめらかでない)速度変化が多かったことを示す.指標間の関連性についてはタッピング評価,線引き課題の運筆加速度とも3試行の平均値を算出しピアソンの相関係数を用い検討した.なお本研究は筆頭著者の所属先における倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】対象者20名の線引き課題における運筆加速度の割合の平均値は95.4であった(最大値99.6,最小値82.6).タッピング評価と運筆加速度の割合との関連では,1Hzの③距離のずれ率と運筆加速度の割合との間にのみ有意な負の相関が示された(r=-0.47,p<0.05).
【考察】本研究では,タッピング評価の距離のずれ率が小さいほど,線引き課題の運筆加速度の割合が大きくなる(なめらかな速度変化が多い)という結果であった.健常児においては,はみ出さないように描く線引き課題はフィードバック制御を適用しながら動作を遂行していると思われ,小さな加速度の変動はそれを表していると考えられる.今回,線引き課題においては協調的な筆記具の操作の指標である運筆加速度とタッピング評価の距離のずれ率において関連がみられたことは,距離のずれ率は拇指と示指の協調的な筋コントロールを行うためのフィードバック制御の状態を反映している可能性が考えられた.今後は不器用さを有する発達障害児で同様の調査を行い,さらにタッピング評価の有用性について明らかにしていく.