第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-1] ポスター:発達障害 1

2022年9月16日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PI-1-4] ポスター:発達障害 1発達に問題を抱える幼児の協調運動能力と運動経験に関する予備的研究

三上 美咲1小枝 周平1斉藤 まなぶ2佐藤 ちひろ1山田 順子1 (1弘前大学大学院保健学研究科,2弘前大学大学院医学研究科神経精神医学講座)

【はじめに】
幼児期の運動経験の不足は,基礎的な運動能力の発達や心肺機能,骨形成にも影響を及ぼす.また,昨今のコロナ禍での外出自粛などの影響も受け,子どもの運動経験不足へのさらなる懸念が生じている.発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder:DCD)とは,“運動技能の学習および使用の機会”に応じて期待されるレベルよりも,協調運動の獲得や遂行が明らかに劣っており,学習や日常生活に支障をきたす状態をいう.しかし,“運動技能の学習および使用の機会”に関する明確な基準はなく,現状の運動能力に対する運動経験による影響を厳密に判断することは難しい.また,DCDは自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症など他の神経発達症とも高頻度で併存するが,それらを併存した場合,子どもの活動への興味の有無や適応状況により,運動経験の内容の偏りや経験頻度の差が生じることが予想される.本研究は,運動経験という視点から幼児期の協調運動の問題への理解を深め,適切な介入・指導への足掛かりとするため,DCDを含む発達に問題を抱える幼児の日常生活における運動経験と協調運動能力との関連を明らかにすることを目的とした.
【方法】
本研究は,A市5歳児発達健診一次スクリーニングにて,発達における何らかの問題を持つと判断され二次健診を受診した69名を対象に調査を行った.運動経験については,対象児の保護者に対しアンケート形式にて,5歳現在および年少~年中時それぞれの時点の,子どもが通う保育園・幼稚園・こども園以外での運動の頻度について回答を求めた.対象とする運動は,指先の細かい動きを伴う活動(微細運動),全身を使ったバランスを必要とする活動(バランス運動),ボールを投げたりキャッチしたりする活動(ボール運動)とした.協調運動能力は,Movement Assessment Battery for Children第2版を用いて,手先の器用さ,バランス,ボールスキルの3領域の運動能力について直接評価を行った.本研究は弘前大学医学研究科倫理委員会の承認のもと実施された.発表演題に関連する企業等とのCOIはない.
【結果】
運動経験についてのアンケートの結果,5歳現在・年少~年中時ともに,微細運動およびバランス運動に比べ,ボール運動の頻度が少ない傾向が示された.次に,アンケート結果と協調運動能力テストの得点の関連を解析した結果,年少~年中時のボール運動の頻度とボールスキル得点に有意な相関関係が認められ(p < .05),年少~年中時のボールを投げたりキャッチしたりする活動の頻度が少ない子どもほど,5歳時点のボールスキルの得点が低いことが示された.
【考察】
これらの結果から,ボールを投げたりキャッチしたりする運動は,他の微細運動や粗大運動に比べ,幼児期を通して家庭での遊びの中では経験されにくく,その運動経験の少なさが5歳時点の運動能力の低さに影響を与えている可能性が示唆された.今後,対象児の診断を考慮した上で再度解析を行う予定である.また,より正確に対象児の運動経験を評価するためには,対象とする運動の種類を増やし,運動量や運動の質を考慮した調査・測定を行う必要がある.