第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-3] ポスター:発達障害 3

2022年9月16日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PI-3-2] ポスター:発達障害 3未就学児に対する,活動の意図を共有できるよう段階付けを行った介入事例

籔中 雅之1中村 純子1岡 春奈1寺井 淳志1島田 芽衣1 (1東浦平成病院リハビリテーション科)

【はじめに】就学前後の自閉スペクトラム症(以下,ASD)児では,日常生活動作の獲得に困難さが生じることが多い.この原因の一つとして,ASDに多く見られる社会的認知機能の困難さが挙げられている.つまり,他者から提示されたものへの注目ができず,社会的に一般化されている活動形態について他者を参考にしながら学習する機会が損なわれているものと考えられる.今回ASD傾向のある未就学児に対して,OTの提示によって物品の用途や活動の工程へと注目しやすい配慮をした訓練課題を行い,日常生活動作能力の改善に至った事例について報告する.本報告は対象者家族に対して書面・口頭にて説明し同意を得ている.また,当院の倫理審査委員会の許可を得ており,演題発表に関連して開示すべきCOIはない.
【事例紹介】事例は当院の外来作業療法を利用している男児(4歳5ヶ月,年中)であった.主病名は知的障害(IQ43,暦年齢3歳11か月)だが,PARS-TR(Parent-interview ASD Rating Scale-Text Revision)では幼児期ピークが27点でありASDが強く示唆された.
【評価】母への面接にて困難さを感じている活動として「運筆 (以下,①)」「投球 (以下,②)」「上着ボタンの着脱 (以下,③)」が挙げられた.目標はGoal Attainment Scaling(以下,GAS)を用いて設定した.初期評価時のGASの結果は① -1,② -1,③ -1だった.これらの活動を遂行する際には,手本の提示によって渡された道具を扱おうとしていた.しかし,それぞれの場面で①線での描画は行わず紙一面を塗りつぶそうとする,②ボールを投げずに手渡す,③ボタン穴の保持やボタンの向きの調節ができない,といった様子がみられた.これらの困難さには共通して,本人が理解している活動の目的と,他者が求める合否の判断基準が乖離していることが挙げられる.特にそれぞれの活動で用いる物品の用途や活動の工程について,意思疎通が図れるような配慮が必要と考えられた.
【介入】訓練課題の設定の際は,物品の配置による状況から本人が正しく推察できるか,OTの提示を数回行えば理解できるように配慮し,本人とOTの目的が一致した状態で課題を遂行できる方法を検討した.課題の段階付けとして,それぞれの活動と類似した形状や性質を持つ物品・容器・道具を用意し,粗大で工程の少ない単純なput in課題から開始した.その後,徐々に物品の大きさや配置を変化させ,目標とする活動の形態でも目的が一致した状態で遂行できることを目指した.
【結果】GASの結果は① -1→1,② -1→2,③ -1→1と全ての目標で改善がみられた.
①A4用紙に大きく書かれた一文字をなぞれる.
②訓練中だけでなく,普段の生活の中でもキャッチボールをして家族と遊べる.
③生活の中でも大人が誘導すれば上着のボタンを留められるが,首元のボタンのみ留められない.
上記の活動遂行時における物品の把持や操作の方法にはいくつかのバリエーションがあり,状況に応じて適切な方法を選択できていた.しかし描画で角を描けず全て曲線になってしまうことや,ボタンを留められるが外すことはできないなど,具体的に練習を行っていない活動では困難さが継続した.
【考察】活動の目的や合否の判断基準を一致させながら訓練課題を遂行することを重視して,段階的に目標とする活動の理解が得られるように訓練課題を変化させながら介入した.すると,具体的に訓練した活動については状況に応じて適切な方法を選択することが可能となった.目的を理解できる範囲で訓練課題を変化させたことで,最終的には困難を生じていた活動に対しても的確な理解が得られ,自身で判断しながら活動を行えるようになったと考えられた.