[PI-4-3] ポスター:発達障害 4後天性脳損傷児の通常学級への適応プロセスに関する保護者の経験の質的解明
複線径路等至性アプローチを用いて
<序論>後天性脳損傷による後遺症は,子どもにとっての社会である学校での適応に影響を及ぼす.学校での不適応は,将来の進学や就労などの社会生活にも障壁をもたらす可能性があるため,後天性脳損傷児の学校への適応を支援することは極めて重要であるが,その適応プロセスは明らかになっていない.
<目的>後天性脳損傷児が学校へ適応していくプロセスの共通性と多様性を保護者の経験から解明することである.
<方法>本研究は時間軸に沿った個別的かつ多様な保護者の経験を明らかにするため,質的研究法である複線径路等至性アプローチを採用した.参加者は,小学校の通常学級に復学(就学)を経験した後天性脳損傷児の保護者である.データ収集は半構造化インタビューを同一参加者に2回ずつ実施した.インタビューは録音し逐語録を作成した.分析の手順は,個別事例のデータをSCAT(Steps for Coding and Theorization)の質的データ分析方法に基づいて構成概念,理論記述を生成した.次にSCATで生成された構成概念および理論記述の語句を用いて個別のTEM(Trajectory Equifinality Model)図を作成し,参加者との合意形成を行った.最後に参加者全員分の個別のTEM図に示された等至点(Equifinality Point: EFP),必須通過点(Obligatory Passage Point: OPP),目標の領域(Zone of Finality: ZOF)は共通する概念を統合し,分岐点(Bifurcation Point: BFP),社会的ガイド(Social Guidance: SG),社会的方向づけ(Social Direction: SD)は共通する概念と参加者によって異なる個別の概念を決定し,一つのTEM図を作成した.本研究は所属大学倫理委員会の承認を得て実施し,参加者には書面にて同意を得た.
<結果>参加者は5名の母親で,対象児の年齢は8歳から13歳であり全員通常学級に所属していた.TEM図を作成した結果,後天性脳損傷児の就学(復学)プロセスにおけるEFP【適応をめぐる葛藤】という新たな概念および3つのBFP【就学(復学)対策の葛藤】【クラスへの説明をめぐる葛藤】【対健常児比較】が生成され,それぞれのBFPにおける保護者の多様な葛藤が明らかとなった.各時期におけるSGとして【インクルーシブ教育が行き届いた学校環境】【合理的配慮に対する当たり前感のあるクラス雰囲気】【特別支援教育の専門教員による支援】【学習補助デバイス】などが挙げられ,SDとして【了解困難な医療用語を用いた説明】【高次脳機能障害の通常学級での支援の未確立】【自治体による支援格差】などが挙げられた.EFPを通過した後には,OPP【進級・進学】を通過し【成人期への後遺症の影響】を懸念することや【ライフステージの変化への適応】を願いながら,ZOF【適応的将来像】に向かう径路が描出された.
<考察>本研究の結果から,学校での適応状態というものは,刻々と変化していく学校の課題や年齢に応じた社会経験に対する保護者の絶え間ない葛藤を伴う動的な概念であることが示された.本研究では3つのBFPが描出され,学校への適応に向かう径路には参加者ごとに異なる多様な障壁が存在することが示された.学校への適応は通過点としての目標である.TEM図は,適応プロセスの各時期に顕在化される可能性のある問題や保護者の多様な葛藤を予測することを可能にする.作業療法士は先取的にその対応を保護者や学校と協議することによって,学校への適応に向かう径路の促進に貢献し得ると考えられた.また,将来に待ち受けているライフステージの変化を考慮した,地域社会生活への参加における対象児と保護者の苦悩の共感や問題解決を長期的に支援することが作業療法士の役割として重要であると考えられた.
<目的>後天性脳損傷児が学校へ適応していくプロセスの共通性と多様性を保護者の経験から解明することである.
<方法>本研究は時間軸に沿った個別的かつ多様な保護者の経験を明らかにするため,質的研究法である複線径路等至性アプローチを採用した.参加者は,小学校の通常学級に復学(就学)を経験した後天性脳損傷児の保護者である.データ収集は半構造化インタビューを同一参加者に2回ずつ実施した.インタビューは録音し逐語録を作成した.分析の手順は,個別事例のデータをSCAT(Steps for Coding and Theorization)の質的データ分析方法に基づいて構成概念,理論記述を生成した.次にSCATで生成された構成概念および理論記述の語句を用いて個別のTEM(Trajectory Equifinality Model)図を作成し,参加者との合意形成を行った.最後に参加者全員分の個別のTEM図に示された等至点(Equifinality Point: EFP),必須通過点(Obligatory Passage Point: OPP),目標の領域(Zone of Finality: ZOF)は共通する概念を統合し,分岐点(Bifurcation Point: BFP),社会的ガイド(Social Guidance: SG),社会的方向づけ(Social Direction: SD)は共通する概念と参加者によって異なる個別の概念を決定し,一つのTEM図を作成した.本研究は所属大学倫理委員会の承認を得て実施し,参加者には書面にて同意を得た.
<結果>参加者は5名の母親で,対象児の年齢は8歳から13歳であり全員通常学級に所属していた.TEM図を作成した結果,後天性脳損傷児の就学(復学)プロセスにおけるEFP【適応をめぐる葛藤】という新たな概念および3つのBFP【就学(復学)対策の葛藤】【クラスへの説明をめぐる葛藤】【対健常児比較】が生成され,それぞれのBFPにおける保護者の多様な葛藤が明らかとなった.各時期におけるSGとして【インクルーシブ教育が行き届いた学校環境】【合理的配慮に対する当たり前感のあるクラス雰囲気】【特別支援教育の専門教員による支援】【学習補助デバイス】などが挙げられ,SDとして【了解困難な医療用語を用いた説明】【高次脳機能障害の通常学級での支援の未確立】【自治体による支援格差】などが挙げられた.EFPを通過した後には,OPP【進級・進学】を通過し【成人期への後遺症の影響】を懸念することや【ライフステージの変化への適応】を願いながら,ZOF【適応的将来像】に向かう径路が描出された.
<考察>本研究の結果から,学校での適応状態というものは,刻々と変化していく学校の課題や年齢に応じた社会経験に対する保護者の絶え間ない葛藤を伴う動的な概念であることが示された.本研究では3つのBFPが描出され,学校への適応に向かう径路には参加者ごとに異なる多様な障壁が存在することが示された.学校への適応は通過点としての目標である.TEM図は,適応プロセスの各時期に顕在化される可能性のある問題や保護者の多様な葛藤を予測することを可能にする.作業療法士は先取的にその対応を保護者や学校と協議することによって,学校への適応に向かう径路の促進に貢献し得ると考えられた.また,将来に待ち受けているライフステージの変化を考慮した,地域社会生活への参加における対象児と保護者の苦悩の共感や問題解決を長期的に支援することが作業療法士の役割として重要であると考えられた.