[PI-5-5] ポスター:発達障害 5Escobar症候群を呈した男児のピンセット箸操作獲得の経験
みて!できたよ
【はじめに】多発性翼状片(Escobar)症候群幼児に対し,ピンセット箸動作訓練を実施し食事動作の獲得に至った経緯を紹介する.発表にあたり症例の母親から書面で同意を得た.
【多発性翼状片症候群とは】関節部の翼状片,拘縮,眼瞼下垂などの特異顔貌,骨格系の異常で特徴づけられる症候群で,非進行性であり稀な疾患である.
【症例紹介】初期評価時,4歳9か月男児.現病歴:骨盤位のため37週に帝王切開,出生時体重1759g.生後36日,Escobar症候群と診断され,OTが開始された.生後2カ月27日に自宅退院し,2回/月で外来OTとなり,4歳9ヵ月時に担当となった.初期評価:四肢関節に拘縮,多趾,合趾を認めた.関節可動域右上肢(単位°)は,肩関節屈曲・外転120,伸展35,外旋40,内旋80,肘屈曲120,伸展-60,前腕回内20,回外15,手関節掌屈50,背屈55,中手指節骨関節屈曲70,伸展0,近位・遠位指節間関節屈曲0,伸展0で左上肢もほぼ同様の制限あり.両下肢股関節,膝関節に屈曲位拘縮を認めた.筋力はMMTで5,感覚は問題なし.生活年齢5歳4カ月時の新版K式発達検査DQ(発達指数)は,全領域47,姿勢-運動18,認知-適応63,言語-社会42であった.基本動作は自立,移動は四つ這い移動,歩行は歩行器自立であった.食事は右手でスプーンを用い概ね自己摂取可能,歯ブラシは両手で把持し一部可能であった. 物品は手指内外転で示指-中指間で挟み把持可能で,おもちゃを含む日常物品の操作は,両手を使用すれば概ね可能であった.
【治療経過】担当交代直後から母の希望もあり箸操作練習を開始した.箸は利き手である右手で使用した.本症例の把持は手指内外転であるため,箸と指の固定が1か所となり不安定であった.指と2本の箸を繋ぐ結合部の2か所で固定されるピンセット箸の操作獲得を目標とした.4歳9か月,トングを用い評価,箸操作前段階の練習目的でトングの一方に長さ1cmの筒をつけ示指を差し込み,指の延長上にトングを固定した.示指のみの固定であり固定が緩くトングが落ちていたが,徐々に挟むことが可能となりスポンジ片の移動が可能となった.5歳0か月,市販のピンセット箸に補助輪を2個つけ指への固定力を強化した.導入時は開閉操作に左手を箸に添えていたため,左手にお椀を持たせることで右手のみでの操作を促し,箸の開閉操作が可能となった.5歳5か月,自宅での食事動作にピンセット箸を導入した.箸先の口元へのリーチが不十分で左手で箸を押し食物を口に入れる動作が見られたため,箸の把持角度を指と並行ではなく直角にする必要があった.5歳6か月,把持練習に焦点を当てる目的で持ち手の幅の広めのピンセットに変更し,ピンセットは指と直角にし,示・中指で把持した.持ち手が広いため安定して把持し,落とすことは少なく,スムーズに使用可能となった.5歳9か月,把持幅の狭い市販のピンセット箸に変更,不安定であったため導入時は落とすことが多かったが徐々に改善した.食べ物の形に合わせてピンセット箸の方向も変えることができた.6歳1か月,自宅でピンセット箸を使用しほぼ完食可能となった.
【考察とまとめ】箸を用いた食事に必要な可動域は肘屈曲が最小でも約99°必要であり(中武潤2019),前腕回外が制限されると肘屈曲がいっそう要求される(カパンディ1995)と報告されている.箸操作には,①箸の把持,②開閉の操作,③対象物の把持,④口元に運ぶ,4つの工程が必要である.本症例は肘関節,前腕の可動域制限により口元へのリーチが,手指の関節可動域制限により箸の把持動作が困難であり,複合的要因に対する臨機応変な対応が必要であった.今回の症例を通して,動作を観察すること,適切な評価,容易に行える段階付けを意識すること粘り強い対応が重要であることが示唆された.
【多発性翼状片症候群とは】関節部の翼状片,拘縮,眼瞼下垂などの特異顔貌,骨格系の異常で特徴づけられる症候群で,非進行性であり稀な疾患である.
【症例紹介】初期評価時,4歳9か月男児.現病歴:骨盤位のため37週に帝王切開,出生時体重1759g.生後36日,Escobar症候群と診断され,OTが開始された.生後2カ月27日に自宅退院し,2回/月で外来OTとなり,4歳9ヵ月時に担当となった.初期評価:四肢関節に拘縮,多趾,合趾を認めた.関節可動域右上肢(単位°)は,肩関節屈曲・外転120,伸展35,外旋40,内旋80,肘屈曲120,伸展-60,前腕回内20,回外15,手関節掌屈50,背屈55,中手指節骨関節屈曲70,伸展0,近位・遠位指節間関節屈曲0,伸展0で左上肢もほぼ同様の制限あり.両下肢股関節,膝関節に屈曲位拘縮を認めた.筋力はMMTで5,感覚は問題なし.生活年齢5歳4カ月時の新版K式発達検査DQ(発達指数)は,全領域47,姿勢-運動18,認知-適応63,言語-社会42であった.基本動作は自立,移動は四つ這い移動,歩行は歩行器自立であった.食事は右手でスプーンを用い概ね自己摂取可能,歯ブラシは両手で把持し一部可能であった. 物品は手指内外転で示指-中指間で挟み把持可能で,おもちゃを含む日常物品の操作は,両手を使用すれば概ね可能であった.
【治療経過】担当交代直後から母の希望もあり箸操作練習を開始した.箸は利き手である右手で使用した.本症例の把持は手指内外転であるため,箸と指の固定が1か所となり不安定であった.指と2本の箸を繋ぐ結合部の2か所で固定されるピンセット箸の操作獲得を目標とした.4歳9か月,トングを用い評価,箸操作前段階の練習目的でトングの一方に長さ1cmの筒をつけ示指を差し込み,指の延長上にトングを固定した.示指のみの固定であり固定が緩くトングが落ちていたが,徐々に挟むことが可能となりスポンジ片の移動が可能となった.5歳0か月,市販のピンセット箸に補助輪を2個つけ指への固定力を強化した.導入時は開閉操作に左手を箸に添えていたため,左手にお椀を持たせることで右手のみでの操作を促し,箸の開閉操作が可能となった.5歳5か月,自宅での食事動作にピンセット箸を導入した.箸先の口元へのリーチが不十分で左手で箸を押し食物を口に入れる動作が見られたため,箸の把持角度を指と並行ではなく直角にする必要があった.5歳6か月,把持練習に焦点を当てる目的で持ち手の幅の広めのピンセットに変更し,ピンセットは指と直角にし,示・中指で把持した.持ち手が広いため安定して把持し,落とすことは少なく,スムーズに使用可能となった.5歳9か月,把持幅の狭い市販のピンセット箸に変更,不安定であったため導入時は落とすことが多かったが徐々に改善した.食べ物の形に合わせてピンセット箸の方向も変えることができた.6歳1か月,自宅でピンセット箸を使用しほぼ完食可能となった.
【考察とまとめ】箸を用いた食事に必要な可動域は肘屈曲が最小でも約99°必要であり(中武潤2019),前腕回外が制限されると肘屈曲がいっそう要求される(カパンディ1995)と報告されている.箸操作には,①箸の把持,②開閉の操作,③対象物の把持,④口元に運ぶ,4つの工程が必要である.本症例は肘関節,前腕の可動域制限により口元へのリーチが,手指の関節可動域制限により箸の把持動作が困難であり,複合的要因に対する臨機応変な対応が必要であった.今回の症例を通して,動作を観察すること,適切な評価,容易に行える段階付けを意識すること粘り強い対応が重要であることが示唆された.