第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-6] ポスター:発達障害 6

2022年9月17日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PI-6-5] ポスター:発達障害 6きょうだい児という生育歴よりもたらされる運動発達への影響について

大坪 光保1鳥越 夕妃2 (1社会福祉法人麦の子会 むぎのこ発達クリニック,2社会福祉法人麦の子会 札幌市みかほ整肢園,3)

【はじめに】
きょうだい児として出生,乳児期に床上運動の経験が乏しく,幼児期になっても姿勢保持不安定で粗大運動能力も低い児を担当した.村岡は,幼児の運動的発達は,体格などの素質的側面を土台として,知的発達や行動傾向さらに生活環境といった他の様々な要因との複雑な絡み合いを通して達成されるとしている.きょうだい児という生育歴に加え,こだわりや感覚特性があることで,運動発達にも影響していた児を担当したので報告する.今回の報告に関して保護者の同意を得ている.
【事例紹介】
5歳1か月男児.診断は自閉スペクトラム症(ASD),知的障害.40週3472gで出生.癇癪・こだわり・不安が強いを主訴に1歳3か月時初診,当院集団療法参加.2歳3か月より当法人内事業所に週5日通園開始.3歳より当院言語聴覚療法開始.3歳7か月より,歩き方が気になる,転びやすい,癇癪が強く反り返り抱っこが難しいとの保護者の訴えにて,上記改善と運動発達促進を目的に作業療法開始.2歳上の兄もASDの診断.
【作業療法評価】
運動発達:定頸3M,寝返り5M,座位7M,四つ這い10M,初歩1Y2M.抱っこ紐やおんぶでの移動が多く四つ這い経験が乏しい.全身的に低緊張ベースでMMT4レベル.関節可動域に著明な制限なし.パラシュート反射左上肢遅延.ATNR残存.姿勢保持:骨盤後傾位,坐骨荷重を避ける.正座保持不可.膝立ち位・片脚立位・ぶら下がり開始肢位取れず不可.階段昇降・その場ジャンプ不可.ADL:WeeFIM37点.運動項目26点,認知項目11点.SI:象限別,セクション別ともに全項目で高い,もしくは非常に高いを示す.JSI-R:味覚のみY,その他全項目R.頭部を下にした姿勢や重心動揺への過度な抵抗あり.前庭覚過敏あり探求あり混在,重力不安あり.
新版K式発達検査2001全領域DQ43,DA1:9,CA3:10.
【作業療法経過】 
座骨荷重,従重力/抗重力活動,回旋運動などを組み合わせた姿勢保持練習や,粗大運動,バランス練習等を取り入れ作業療法を月1~2回実施.新規場面に弱く母子分離が難しいことから,担当者との関係性構築までに時間を要した.体幹の抗重力伸展運動や体軸内回旋,正中交差なども未熟.四肢の協調運動の苦手さあり.体幹同時収縮が弱く,スイング遊具の腹臥位で頭部挙上位保持も難しいなど姿勢保持の弱さがみられた.スイング遊具やバランスボール等で,腹筋群の活発な屈曲を伴う体幹回旋運動を促し,トランポリン等で前庭感覚の入力,体重負荷による固有受容覚の入力変化に気づけるよう促した.次第に短時間の座骨荷重を受け入れられるようになり,座位時の支持基底面が安定したことや,体幹抗重力伸展活動が増えたことで姿勢保持能力が向上した.
【考察】
本事例の運動発達には,乳児期の床上運動経験の不足が関与していることが考えられた.母が多動な兄を追いかけるために移動時は抱っこやおんぶが多く,分離不安もあることから乳児期の積極的な環境探索活動が制限されていたと考えられる.伊東は運動発達が遅れる要因として,IQ以外にも低緊張など身体面の問題の他に,手足のベタベタや触れることへの拒否,癇癪や場の慣れにくさ等の感覚的な要素の問題が運動発達に影響していると述べている.また,Ayresは子どもが重力との関係の中で自分の動きを空間内できちんと登録できないと姿勢調節ができないと説明している.きょうだい児という家族環境からもたらされた運動経験の不足とASDの感覚特性から,姿勢保持能力,運動発達への影響を及ぼしていることが示唆された.今後,きょうだい児の運動発達について調査していきたい.