第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-7] ポスター:発達障害 7

2022年9月17日(土) 13:30 〜 14:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PI-7-5] ポスター:発達障害 7発達障害児のコミュニケーション及び行動・情緒の変化について

S-M社会生活能力検査の変化から

黒渕 永寿1玉野 彩1白石 優美1石川 唯1 (1自治医科大学附属病院リハビリテーションセンター)

【はじめに】自閉症スペクトラム障害(以下ASD),注意欠陥多動性障害(以下ADHD),発達性協調運動障害(以下DCD)等の発達障害を抱える保護者からは,言葉の遅れ,話が一方的,会話が成立しにくいなどのコミュニケーションンに関する主訴や落ち着きがない,衝動性がある,集団参加が難しいなどの行動・情緒面に関する主訴が多く挙げられる.当院では,感覚統合療法を(以下SI療法)実施し,主訴として挙げられるコミュニケーションや行動・情緒面に対するアプローチを実施している.今回,S-M社会生活能力検査の下位項目を利用し,SI療法がコミュニケーションや行動・情緒面にどうのように影響しているのか若干の考察を加え報告する.
【対象】2015年から2021年に当院を受診し,ASD,ADHD,DCD等の診断を受けた33名.男児29名,女児4名,初回評価時の年齢は3歳3ヶ月から7歳9ヶ月,平均5.2歳.再評価時の年齢は5歳11ヶ月から8歳9ヶ月,平均6.6歳.なお,本研究についての説明と同意は保護者に対して行った.
【方法】作業療法初回評価時と作業療法終了予定日前にS-M社会生活能力検査を保護者に依頼し,記述したものを後日回収し,検査者がスコアを集計した.記入者は母親30名,父親2名,祖母1名であった.S-M社会生活能力検査は身辺自立(以下SH),移動(以下L),作業(以下O),コミュニケーション(以下C),集団参加(以下S),自己統制(以下SD)の下位項目からなり社会生活年齢(以下SA)と社会生活指数(以下SQ)が出される.今回は下位項目である,CとSとSDの領域別社会生活年齢の変化を初回評価時と再評価時で比較し,その差を導き出し,治療期間と比較した.又,S-M社会生活能力検査の初回評価時と再評価時のSQ値の変化を調査した.
【結果】対象児におけるSI療法の期間は最短4ヶ月,最長は3年3ヶ月,平均1年4ヶ月.SI療法の回数は,最大60回,最小10回,平均28.3回であった.下位項目検査のコミュニケーションの差が治療期間より長い児は20名(60.6%),治療期間と同じ児は2名(6.0%),短い児は11名(33.3%).集団参加の差が治療期間より長い児は13名(39.3%),治療期間と同じ児は0名,短い児は20名(60.6%).自己統制の差が治療期間より長い児は16名(48.4%),治療期間と同じ児は4名(12.1%),短い児は13名(39.3%)であった.初回評価時のSQ値最高スコア106,最低スコアは48,平均値は80.6,再評価時のSQ 値最高スコア133,最低スコアは53,平均値は84.0.SQ値が増加した児は20名(60.6%),減少した児は12名(36.3%),変化無しは1名(3.0%)であった.初回評価時と再評価時のSQ値の差は最大71,最小-22となり,全体のSQ値の差の平均は3.1であった.
【考察】領域別社会生活年齢の差がSI療法の期間より長い場合は,年齢発達以上の発達がみられたとして治療効果があると判断し,逆に短い場合は,訓治療効果が少ないと判断した.今回の結果では,下位項目検査のコミュニケーション,自己統制,集団参加の順で治療効果が高い結果となった.基本的にSI療法は脳機能の皮質下へのアプローチを中心としており,皮質下の機能不全が解消されることによりコミュニケーションや行動・情緒の機能が改善されると考えられている.上記に加え,SI療法は1対1での関りで実施するため,指示が入りやすい環境も影響し約6割に治療効果が出たと思われる.自己統制も同様に1対1での関係性により,活動の際に「待つ」ことや「我慢する」という行動も取り入れられていることが約5割の治療効果に繋がったと思われる.逆に集団参加は1対1の個別訓練であるため,集団活動の経験がとれないことが集団参加の治療効果の低さにつながった可能性がある.