第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-1] ポスター:高齢期 1

2022年9月16日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PJ-1-1] ポスター:高齢期 1Patient Empowerment Scale日本語版の開発

坪内 善仁14田結荘 秋嘉2下村 広大2萬屋 京典3内藤 泰男4 (1奈良学園大学保健医療学部,2医療法人鴻池会 秋津鴻池病院リハビリテーション部,3星城大学リハビリテーション学部,4大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科)

【緒言】
高齢患者は,疾病の治療方針や生活時間について医師や医療従事者の決定に依存し,学習性無力感や不活動に陥ることがある.そのため,高齢者が自身の潜在能力に気づき,健康の維持・増進に向けて行動を調整しようとする意識改革,つまりエンパワメントの促進が重要になる.近年では,日本の高齢患者の支援においてエンパワメントの概念が多く用いられている.しかし,高齢患者のエンパワメントを測定する尺度が存在せず,エンパワメントへの影響因子や促進に向けた具体的な支援方法,効果は解明されていない.そこで本研究では,高齢患者に適用可能なPatient Empowerment Scale(PES)を邦訳し,妥当性と信頼性を検証することとした.
【方法】
PESは,International Society for Pharmaco−economics and Outcomes Researchタスクフォースのガイドラインに沿って邦訳し,the COSMIN checklistを基に日本語版PES (PES Japanese version; PES-J)の妥当性と信頼性を検証した.対象は,2019年~2021年に国内4施設の回復期病棟に入院した65歳以上の患者で,調査は担当作業療法士が実施した.分析では,項目得点の分布を確認し,天井・床効果を示す項目は削除した.次に,妥当性の検証では,構造的妥当性で探索的因子分析を行った.その際,因子負荷量が0.4未満の項目は削除した.基準関連妥当性では,外的基準として自己統制感;Health Locus of Control Scale (HLC), 自己効力感;Generalized Self-Efficacy Scale (SE), 首尾一貫感覚;13-item Sense of Coherence Scale (SOC-13), 自尊感情;Rosenberg Self Esteem Scale (RSES), 主観的幸福感;The Philadelphia Geriatric Center Morale Scale(PGC)を用いて検証した.信頼性では,内的整合性で全体・因子ごとのクロンバックα,検査-再検査信頼性では2回の調査により,総点の相関と各項目得点の級内相関係数を算出した.統計解析はSPSS Ver.26.0を使用し,有意水準は5%未満とした.なお,本研究は所属施設の研究倫理委員会の承認を得ており,対象者には個人情報保護の方法等を口頭と書面で説明し,同意を得た.
【結果】
対象者は151名で,男性54名(35.8%),年齢81.8±7.2歳であった.天井効果を認めた2項目と因子負荷量が0.4未満であった1項目が削除され,PES-Jは37項目となった(37項目PES-J).妥当性の検証では,探索的因子分析で6因子が抽出され,累積寄与率は69.531%であった.基準関連妥当性では,HLC(ρ=0.406-0.794;p<0.001),SE(ρ=0.432-0.778;p<0.001),SOC-13(ρ=0.227-0.459;p<0.001-0.005),RSES(ρ=0.36-0.695;p<0.001),PGC(ρ=0.345-0.662;p<0.001)と有意な相関を認めた.信頼性の検証では,内的整合性で37項目全体のクロンバックαが0.928,各因子は0.75-0.933であった.検査-再検査信頼性では,2回の測定で総点はρ=0.957;p<0.001,各項目はκ=0.515-0.896;p<0.001であった.
【考察】
妥当性の検証について,構造的妥当性で抽出した6因子は,エンパワメントの構成要素(個人の内面的要素,相互作用的要素,行動的要素)に準じた因子構造であり,妥当な構造と考えられた.また,基準関連妥当性では,37項目PES-JはHLC,SE,SOC-13,RSES,PGCと相関を認め,外的基準を満たした尺度であると考えられた.信頼性の検証では,37項目PES-J全体のクロンバックαは0.9以上で高い内的整合性を示し,検査-再検査信頼性においても全項目で有意な相関を示したことから,高齢患者への尺度として信頼性があると考えられた.以上より,37項目PES-Jは妥当性と信頼性のある尺度であることが確認され,高齢患者に適用可能と考えられた.