第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-4] ポスター:高齢期 4

2022年9月16日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PJ-4-5] ポスター:高齢期 4高齢者に対する生産的作業に関する作業療法支援の現状と課題:スコーピングレビュー

木村 侑里南1丸山 祥1嶋津 美乃里1鈴木 達也2 (1湘南慶育病院リハビリテーション部,2聖隷クリストファー大学)

【緒言】
作業療法の本質はクライエント中心であり,実際にクライエントがしたい・する必要のある・することが期待されているさまざまな作業への支援が行われている.そのなかでも生産的作業は,有給無給に関わらず,何かを生み出すことによって,達成感や有能感や役割等を感じることができる重要なものである.しかし,日本国内の作業療法領域において生産的作業に関する共通の知識基盤が整備されているとは言い難い.本研究では,高齢者に対する生産的作業に関する作業療法支援の現状と課題を明らかにすることを目的とする.
【方法】
研究の範囲と性質,既存文献の知識のギャップを明確にし,今後の研究を特定するために,スコーピングレビューを選択した.関連文献の特定のために,複数ベータベース(医学中央雑誌web,CiNii,J-STAGE),日本作業療法士協会事例報告登録を利用し,検索式は,作業療法 AND(生産的 OR 生産)AND(作業 OR 活動 OR 生活行為 OR 参加)とした.検索は独立した研究者2名で実施した.最終検索は2022年1月13日20時30分であった.適格基準は,本研究目的に照らして研究論文の内容が,日本の作業療法実践に焦点が当たっているもの・高齢者を対象とするものとした.検索後に会議録,紀要,解説を除き,重複論文を除外した.次に1次スクリーニングとして題目と要旨から適格基準を満たしているものを抽出した.2次スクリーニングとして,入手可能な論文の本文を査読し,適格基準と除外基準に照らして分析対象となる研究論文を抽出した.この一連の文献抽出過程は独立した研究者2名で行い,結果が異なる場合には合議で決定した.本研究は日本作業療法士協会の論文投稿に関する倫理指針を順守して実施した.
【結果】
生産的作業に関する文献はデータベース検索と日本作業療法協会事例報告から274編が該当し,14編が最終的な分析対象として抽出された.実践領域(設定)としては回復期病棟・介護老人保健施設が3件,通所リハビリ・通所介護が2件,療養型病棟・特別養護老人ホーム・認知症予防教室・病院(領域不明)が各1件だった.評価としては,語りや観察の記述などが多数を占めており,構成的評価としては興味関心チェックリスト3 件, 作業に関する自己評価・SF-36 2件 ,カナダ作業遂行測定1件,意志質問紙(VQ)1件,人間作業モデルスクリーニングツール1件,役割チェックリスト1件,パラチェック老人行動評定尺度1件,Frenchay Activities Index1件,WHO-QOL 1件だった.生産的作業の内容は野菜栽培・園芸6件,調理(簡単な調理含む)5件,プレゼントを作る4件,食器洗い・拭き4件,洗濯たたみ2件,掃除2件,買い物2件だった.実践形態として,集団活動の利用,自己の治療的利用,作業参加の機会提供等が挙げられた.
【考察】
結果より,日本の高齢者における生産的作業への実践は他者との関わりの中で見出される特徴があり,対象者の心理社会的変化へとつながっていくものであると考えられた.評価としては人・作業に焦点を当てた評価方法が複数使用されており,人間作業モデル(以下MOHO)に基づくものが比較的多い結果となった.MOHOは意志・習慣・環境といった心理社会的側面に焦点を当てたモデルとされている.他方で,非構成的評価も多数使用されており,語りや観察を結果として示すものが多数見られた.生産的作業を捉えられるような統一された評価の開発と活用が今後の課題であると考える.