第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-6] ポスター:高齢期 6

2022年9月17日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PJ-6-3] ポスター:高齢期 6高齢障害者の価値を置く作業に焦点を当てた介入により作業有能性の向上につながった事例

MOHOSTを活用して

坂本 勇太1 (1公益社団法人函館市医師会 函館市医師会病院リハビリテーション課)

【はじめに】今回,リハビリ以外は臥床し依存的である事例に対し,MOHOSTを用いて人間作業モデルに基づく作業療法を実施した.作業への動機づけが作業参加を制限していたため,価値を置く作業を探索し介入した結果,作業有能性が向上したことで能動的な行動がみられた経過を報告する.
【倫理的配慮】本事例に対し,本人・家族に事例報告の趣旨を説明し,書面にて同意を得た.
【事例紹介】廃用症候群,正常圧水頭症を呈した80歳台男性.過去に和菓子職人をしており,職場では指導者的存在であった.妻と死別してから独居であったが徐々に体力低下し,X年Y月に自宅内で転倒し立ち上がり困難となった.失禁,食事摂取量低下あり施設入所調整のため入院となる.
【作業療法評価】FIM:46/128点(運動:27点,認知:19点)であり,PT・OTによるリハビリ以外では臥床し失禁することが習慣化していた.起居動作,歩行,トイレ動作可能であるにも関わらず介助者に依存的であり,「立つことは出来ない.もう生涯に悔いは無い」と発言し,将来への作業同一性を見出せず作業有能性の低下がみられた.MOHOSTでは38/96点であり,動機づけが全て作業参加を制限し,それに伴い作業のパターン,処理・運動技能を阻害していた.
【介入方針】本人が価値を置く作業を探索し,動機づけと有能性の認識を高めることを目標に介入.
【経過】<価値のある作業を探索した時期>非構成的面接を行った結果,入院前では俳句作りや将棋が好きな趣味人としての役割を担っていたことがわかり,第15病日より俳句作りを開始した.自発的に俳句を書き始め,「俳句を飾って他の人からも募集したらどうだ」と社会的交流に働きかける様子がみられた.第19病日ではOTに半紙を求め,俳句用のサイズに切って他患が俳句作りに参加できるように用紙を作成する様子がみられた.
<挑戦的課題の自発的選択が促された時期>第22病日より将棋の対局を開始.OTが勝利すると「次は頑張るぞ」と挑戦を求める発言が聞かれた.第33病日では介入後に平行棒へ移動し自主的に歩行練習をする場面がみられた.また,勤労時の話をしている際に「どら焼きを作ってみたい」との発言あり,第45病日にどら焼き作りを実施した.「また挑戦できるとは思わなかった」と意欲的であり,OTに手順を教える指導者としての役割を担った.実施後,「また作りたい」との発言が聞かれた.
【結果】FIM:70/128点(運動48点,認知22点),MOHOST:77/96点と改善がみられた.作業に対する動機づけでは, 「出来ない」という発言は減少し,「おかげで起き上がれるようになった」との発言が聞かれ,作業に対する有能性が向上した.作業のパターンでは,リハビリ以外は臥床していたが,リハビリに迎えに行くと「今日も行くか」と作業療法を日課として意欲的に参加し,俳句作りや将棋に取り組む趣味人としての作業同一性を獲得することとなった.処理・運動技能では介入時に排泄の訴えが聞かれ,介助者に依存せずに起居動作,歩行,トイレ動作を見守りで可能となった.
【考察】Kielhofnerは日課に上手く従事すると,効力感と参加を強化する肯定的な感情を経験し,多くの社会的役割に参加するにつれて作業有能性を発達させると述べている.また,新川らは興味を感じ,能力の自己認識のもとに選択した作業の従事を通じた成功体験により有能性が再確認でき,受け身的から能動的な行動へつながったと報告している.本事例においても本人が価値を置く作業を探索し,従事することが日課となり,その成功体験を重ねることで作業有能性の向上や趣味人としての作業同一性が獲得され,さらに自ら排泄の訴えや歩行練習を行う能動的な行動につながったことが示唆された.