[PJ-6-5] ポスター:高齢期 6帰宅願望が強い認知症患者が生きがいである絵画に取り組めるよう環境設定した一事例
【はじめに】認知症患者にとって,入院等の環境変化により受けるストレスは周辺症状を誘発しやすい.帰宅願望はその一つであるが,その人にとって大切な作業に没頭する事が,情動の安定を促し,それらを軽減させる可能性がある.今回,入院生活において生きがいである絵画に取り組める環境設定を行ったことで,帰宅願望が軽減した事例を報告する.本報告は本人に同意を得ている.
【事例紹介】A氏90代後半の男性.アルツハイマー型認知症.定年前は友人と会社を起業し経営していた.独居で,妻は施設入居中で寝たきりの状態であった.2年前物忘れが出現,3ヶ月前,隣家の次男夫婦への迷惑行為が相次ぎ,疲弊した夫婦が前医へ相談し医療保護入院となった.薬剤調整にて粗暴性は落ち着いたが,施設への退院調整の為当院に入院となった.
【作業療法評価】身体機能は屋内歩行修正自立,その他ADLは自立であった.HDS-Rは16/30,減点項目は数字の逆唱,語想起であった.入院当日は興奮状態であったが,OTRが興味関心チェックリストを提示すると絵画を挙げ,絵画は「戦後を生きぬいた定年後の生きがい」と語り,落ち着きをみせた.しかし,翌日から「妻の看病があり自宅に帰る」と帰宅願望を強く訴え,何時間もナースステーションに居座った.認知症に伴う行動障害・精神症状の評価(以下,NPI-Q)では重症度は12/30,介護負担度は16/30といずれも中等度レベルであり,特に妄想,興奮,易怒性が高かった.また認知症高齢者の健康関連QOL調査票短縮版(以下,shortQOL-D)は陽性感情8/28,陰性感情&陰性行動は15/24と低かった.
【介入と経過】〈第1期 1ヶ月目〉毎日の精神科作業療法のうち,週2日で絵画を取り入れると作業に没頭した.好きな時に絵を描きたいと要望があった為,病棟スタッフと相談し,特別にファイルと鉛筆の自己管理の許可を得た.依然として強い帰宅願望が聞かれたが,日中はホールで絵を描いて過ごした.〈第2期 2ヶ月目〉植物や病棟の風景などを次々に描いた.この頃から帰宅願望の内容に「家に置いてきた水彩道具で絵を描きたい」が加わった.OTRが本格的な水彩絵の具を導入すると訴えは軽減し,絵画に短い詩を書き足し始めた.詩は病前,妻がA氏の絵画に書いていたものであり,今でも妻は大切な存在だと語った.この頃から帰宅願望の頻度や粘着性は徐々に軽減した.〈第3期 3ヶ月目〉ホールで個展を開催すると,観覧する他患者に絵の説明をする等交流を楽しんだ.絵画の題材の為に園芸にも取り組み,OTRにも積極的に絵の描き方を指導した.「妻を看取ったらまたここに帰ってくるよ」と語った.自宅退院への固執が無くなり落ち着いた為,妻と同施設へ退院した.
【結果】NPI-Qでは重症度と介護負担度いずれも3/30と軽度となり妄想,興奮,易怒性は大幅に減少した.shortQOL-Dでは陽性感情は17/28に向上し,陰性感情&陰性行動は6/24に低下した.
【考察】A氏は入院前,趣味の絵画と妻の施設への見舞いという2つの習慣を行っていた.しかし入院によってその習慣が失われたことで,自宅に固執した帰宅願望や易怒性が現れたと考える.A氏にとって絵画とは生きがいであり,自己表現とストレス発散の場であった.また大切な妻との協働作業という側面もあった.環境設定を行い,そのような絵画を入院生活でも行えたことがA氏に安心感を与え,情動の安定に繋がったと考える.
【事例紹介】A氏90代後半の男性.アルツハイマー型認知症.定年前は友人と会社を起業し経営していた.独居で,妻は施設入居中で寝たきりの状態であった.2年前物忘れが出現,3ヶ月前,隣家の次男夫婦への迷惑行為が相次ぎ,疲弊した夫婦が前医へ相談し医療保護入院となった.薬剤調整にて粗暴性は落ち着いたが,施設への退院調整の為当院に入院となった.
【作業療法評価】身体機能は屋内歩行修正自立,その他ADLは自立であった.HDS-Rは16/30,減点項目は数字の逆唱,語想起であった.入院当日は興奮状態であったが,OTRが興味関心チェックリストを提示すると絵画を挙げ,絵画は「戦後を生きぬいた定年後の生きがい」と語り,落ち着きをみせた.しかし,翌日から「妻の看病があり自宅に帰る」と帰宅願望を強く訴え,何時間もナースステーションに居座った.認知症に伴う行動障害・精神症状の評価(以下,NPI-Q)では重症度は12/30,介護負担度は16/30といずれも中等度レベルであり,特に妄想,興奮,易怒性が高かった.また認知症高齢者の健康関連QOL調査票短縮版(以下,shortQOL-D)は陽性感情8/28,陰性感情&陰性行動は15/24と低かった.
【介入と経過】〈第1期 1ヶ月目〉毎日の精神科作業療法のうち,週2日で絵画を取り入れると作業に没頭した.好きな時に絵を描きたいと要望があった為,病棟スタッフと相談し,特別にファイルと鉛筆の自己管理の許可を得た.依然として強い帰宅願望が聞かれたが,日中はホールで絵を描いて過ごした.〈第2期 2ヶ月目〉植物や病棟の風景などを次々に描いた.この頃から帰宅願望の内容に「家に置いてきた水彩道具で絵を描きたい」が加わった.OTRが本格的な水彩絵の具を導入すると訴えは軽減し,絵画に短い詩を書き足し始めた.詩は病前,妻がA氏の絵画に書いていたものであり,今でも妻は大切な存在だと語った.この頃から帰宅願望の頻度や粘着性は徐々に軽減した.〈第3期 3ヶ月目〉ホールで個展を開催すると,観覧する他患者に絵の説明をする等交流を楽しんだ.絵画の題材の為に園芸にも取り組み,OTRにも積極的に絵の描き方を指導した.「妻を看取ったらまたここに帰ってくるよ」と語った.自宅退院への固執が無くなり落ち着いた為,妻と同施設へ退院した.
【結果】NPI-Qでは重症度と介護負担度いずれも3/30と軽度となり妄想,興奮,易怒性は大幅に減少した.shortQOL-Dでは陽性感情は17/28に向上し,陰性感情&陰性行動は6/24に低下した.
【考察】A氏は入院前,趣味の絵画と妻の施設への見舞いという2つの習慣を行っていた.しかし入院によってその習慣が失われたことで,自宅に固執した帰宅願望や易怒性が現れたと考える.A氏にとって絵画とは生きがいであり,自己表現とストレス発散の場であった.また大切な妻との協働作業という側面もあった.環境設定を行い,そのような絵画を入院生活でも行えたことがA氏に安心感を与え,情動の安定に繋がったと考える.