第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-7] ポスター:高齢期 7

2022年9月17日(土) 13:30 〜 14:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PJ-7-3] ポスター:高齢期 7大腿骨近位部骨折患者の骨折前の認知症とせん妄の機能予後への影響の調査

玉木 聡1上村 智子2井上 あさひ1長谷川 文1 (1総合上飯田第一病院リハビリテーション科,2信州大学医学部保健学科)

【序論】大腿骨近位部骨折と認知症は,高齢になるほど有病率が急激に上昇する疾患である.そして認知障害は,大腿骨近位部骨折術後の患者の機能予後を不良にする主な要因でもある.高齢の本疾患患者の認知障害の主な原因として認知症とせん妄が挙げられ,特に,認知症の人に併発するせん妄は,高死亡率や認知機能低下のリスク要因であることが分かってきた.
【目的】演者らは,高齢の大腿骨近位部骨折患者を対象に,骨折前の認知症を,患者の状態をよく知る家族などから聴き取って評価するDASC-21(Dementia Assessment Sheet for Community-based Integrated Care System 21 items)で,周術期せん妄をCAM(Confusion Assessment Method)で評価し,術後の機能予後への影響を調べる研究を行っている.本調査では,その研究の初期のデータで観察期間を終えた事例をレビューし,研究結果の傾向を調べることとした.
【方法】大腿骨近位部骨折で入院手術した80歳以上の患者を対象に,骨折前の認知症とせん妄や術後合併症などを評価し,術後1,3,6,12ヶ月後の歩行能力を骨折前と比較した.発症前の認知症重症度(無し,軽度,中等度,重度)はDASC-21で,入院中のせん妄の有無はCAMで評価した.歩行能力は,修正Barthel Indexの移動項目で調べた.なお,本研究は,信州大学医倫理委員会の承認を得て,患者本人と家族から文書での同意を得て実施している.本報告では,2022年1月末までに観察期間を完了した事例を分析対象とした.
【結果】対象者は8名.性別はすべて女性で,平均年齢は86歳(±4.14).骨折部位は頚部3名と転子部5名であった.全員が,骨折前の歩行は自立であった.術後1~12ヶ月の間に歩行能力が自立まで回復した人が4名であった.4名の骨折前の認知症は,無し2名,軽度2名であった.周術期せん妄は,無しが3名,有りが1名であった.せん妄を認めた1名は,術後3日目にはせん妄が消失した.この事例は,骨折前に軽度認知症の状態であった.一方で,歩行能力が悪化した4名中3名が車椅子全介助になった.3名全員が骨折前から軽度認知症を認め,周術期せん妄は無かったものの,1名は肝性脳症を発症し,2名は転倒を繰り返し,歩行不可になった.残りの1名は,骨折前の認知症が中等度で,周術期せん妄が術後7日目まで遷延していた.最終的に,最小限の介助での歩行となった.
【考察】本調査の結果では,自立歩行の高齢者で,骨折前と同水準まで歩行が回復した4名には,認知症は無いが,あっても軽度であり,周術期せん妄があったとしても,短期で消失していた.一方で,1年以内には骨折前の自立歩行の状態に至らなかった4名の歩行悪化の原因は,併存疾患の発症や転倒,周術期せん妄の遷延であった.また,中等度認知症のあった事例では,周術期せん妄が遷延した.以上の知見から,認知症が無いか軽度の高齢者で周術期せん妄があったとしても短期であれば,自立歩行まで回復する可能性があるが,併存疾患の影響や転倒によって,歩行不可となる事例もあり,周術期せん妄や併存疾患の発症・重症化予防,および転倒予防が歩行能力の回復に重要であることが示唆された.骨折前の認知症重症度と周術期せん妄には,関連性がみられたが,これについては事例を増やして検証する必要があると思われた.