第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-7] ポスター:高齢期 7

2022年9月17日(土) 13:30 〜 14:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PJ-7-5] ポスター:高齢期 7地域在住認知症高齢者における行動症状に関連するADLの詳細なプロセスの検討

生活行為工程分析表(PADA-D)を用いた横断的調査

下木原 俊1丸田 道雄2ハン ゴアンヒ2池田 由里子3田平 隆行3 (1鹿児島大学大学院保健学研究科博士後期課程,2鹿児島大学医学部客員研究員,3鹿児島大学医学部保健学科作業療法学専攻)

【序論】認知症を有する高齢者は年々増加しており(厚労省, 2019),地域在住の認知症高齢者においても行動心理症状(BPSD)に関する報告がなされている(Kwon CY et al. 2021; Haibo X et al. 2013).また,BPSD を有する要支援高齢者の要介護状態への移行については,「薬の内服」,「日常の意思決定」,「金銭の管理」が介護度悪化に,「歩行」が維持・改善に関連するとされる(丸田 他.2019).さらに,認知症ケアにおいては残存するADL能力の見極めが重要となる(田平 他.2020).
【目的】本研究の目的は,地域在住認知症高齢者の行動症状とADL能力との関連について,生活行為工程分析表(PADA-D)を用いて明らかにし,関連するADL項目に含まれる詳細なプロセスの自立度を検討することである.
【方法】日本国内の18施設の外来及び通所施設利用者から,認知症を有する127名を募集した.主要データに欠損のない119名(女性71%,平均年齢82.3±9.0歳)を分析対象とした.なお,重篤な精神・身体障害を有する者は除外した.行動症状は認知症行動障害スケール(DBD)で評価し,ADLはPADA-Dで評価した.共変量として,年齢,性別,居住形態,服薬の有無,MMSEを調査した.評価は担当のOTおよび患者をよく知る家族への聞き取りによって行われた.対象者の特性およびPADA-Dスコアは記述統計にて分析した.行動症状とADL実施能力との関連性を調べるため,DBDのスコアを従属変数,PADA-Dの下位項目スコアと共変量を独立変数とした線形回帰モデルを各ADL項目で作成した.そして,回帰係数の推定値が有意であったADL項目については,その行為を構成するプロセスの自立および非自立の割合について記述統計を用いて算出した.自立者の判定は,PADA-Dの下位項目を構成する5つのプロセスそれぞれに含まれる3つの動作がすべて実施可能な者(3点満点)とし,3点未満の者は非自立者とした.統計解析は,Jamovi ver.2.2.5を用い,有意水準は5%未満とした.なお,本研究は鹿児島大学疫学研究等倫理委員会の承認を得て実施した[170377(370)疫-改3].
【結果】対象者のうち75名(63.0%)がアルツハイマー型認知症であり,MMSEの平均点は18.4±5.8点であった.DBDの平均点は13.6±8.5点,PADA-Dの平均点は114.5±44.4点(Max 210点),IADL8項目平均42.5±30.6点(Max 120点),BADL6項目平均72.1±19.7点(Max 90点)であった.PADA-D平均スコアのうち,IADL項目の最大・最低はそれぞれ電話(9.2±6.3点),外出(1.8±3.0点),BADL項目は食事(14.5±2.0点),整容(身繕い)(10.5±4.0点)であった.線形回帰モデルでは,DBDスコアと有意に関連する項目として服薬管理(Adj R2 = 0.18, p < .01, β = -0.580, p = 0.001)が選択された.服薬管理に含まれるプロセスの自立割合の上位3つのプロセスは.「決まった薬を出す」(52名,43.7%),「定量を確認する」(34名,28.6%),「服用する」(32名,26.9%)であった.
【考察】PADA-Dは認知機能に基づいた評価ではあるが,行動症状にも関連することが示唆された.特に服薬管理は影響を受けやすい生活行為であった可能性がある.ADLの残存工程を実施することや,実施できるように支援することにより,生活行為の維持のみならず,行動症状の安定につながるかもしれない.しかし,本研究は横断的調査であるため,今後の縦断的な調査によりこれらの関係を明らかにしていく必要がある.