第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-1] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 1

2022年9月16日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PK-1-2] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 1認知症高齢者に対する意味のある作業を用いた作業療法実践の経過報告

KHcoderによる計量テキスト分析を用いて

島崎 愛純1森本 かえで2泉谷 佑美1鈴木 光1 (1医療法人康生会 泉佐野優人会病院リハビリテーション部,2関西医療大学保健医療学部 作業療法学科)

【はじめに】作業選択意思決定支援ソフト(以下,ADOC)を使用することで認知症者にとって意味のある作業に焦点を当てた目標設定における意思決定の共有が容易となったと報告されている(斎藤ら,2013).意味のある作業の実施によりBPSDが軽減するという報告はあるが(岡本ら,2016),意味のある作業を実施した際の発言内容を分析した報告は少ない.そこで今回,認知症高齢者に対して意味のある作業を用いた作業療法実践中の発言内容を分析したため報告する.
報告に関しては倫理規定に則り,ご本人ご家族に説明のうえ書面にて同意を得た.
【対象】症例は通所リハビリを利用している80歳代,女性,診断名はアルツハイマー型認知症のA氏.自宅で一人暮らしをしていたが,転倒が多くなった.2年前に高齢者住宅に入居後,帰宅願望が出現し,直近1年間では徘徊や感情失禁などが急増している.生活歴は,幼少期に父親が病気で他界した後,母親と兄の3人暮らしであり, 車を所有していなかったため,徒歩や自転車で移動することが多く,散歩や歩くことを好んでいた.13歳頃から紡績工場で綿を織る仕事に就き,結婚後は3人の子供を出産した.地域の婦人会に定期的に参加し,着物の着付けや編み物を習いに行くなど社交的な一面があった.
【方法】ADOCを用いて作業を選択した.個別作業療法を1回20分,週3回,1か月間実施することとした.評価はMini Mental State Examination(以下,MMSE),Geriatric depression scale(以下,GDS),Neuro Psychiatric Inventory(以下,NPI),Berg Balance Scale(以下,BBS)を使用した.発言分析の前にマニュアルを作成し,作業療法中の発言を録音し,発言分析はK H coder3.0を使用した.
【初期評価】MMSE18点,GDS12点,NPI重症度11点,負担度18点,BBS16点であった.施設では,ほぼ毎日徘徊しており,自分は何もできないと感情失禁することも増加している.立位バランス能力低下し,シルバーカー歩行となっている.
【結果】選択した作業は,盆踊りと屋外歩行であった.盆踊りは,リハビリ室にて浴衣を着用し音楽を流しながら実施した.転倒予防のためセラピストが後方から介助した.また,屋外歩行は,約220mシルバーカーを使用しながら歩行した.盆踊りは合計60分,屋外歩行は合計80分実施した.介入2週間後に自宅で転倒し,OTは一時中断した.介入3週間目の評価はMMSE15点,GDS9点,NPI重症度14点,負担度21点,BBS30点であった.落ち着きのなさやうつ症状が増加したが,作業療法中は感情失禁も出現せず,落ち着いていた.発言分析をした結果,盆踊りは「盆踊り」に関する発言が最も多く,屋外歩行時は「車」に関する発言が多かった.
【考察】盆踊りや屋外歩行はA氏の中で過去の自分を想起させ,幼少期の生活を振り返ることができるという意味のある作業であったと考える.認知症高齢者の発言にも意味があり,発言内容を可視化したことによって,作業療法士が意味のある作業であると客観的に判断することができると示唆された.なじみ深い作業は重症アルツハイマー病者のストレス反応を有意に減少し,BPSDを有意に改善させると報告されている(三野,2020).意味のある作業の遂行によりうつ症状の改善を認めているため,今後も継続した介入により,その効果を分析したい.