[PK-1-3] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 1眼鏡着用障害の修正行為後適切となる場合の要因に関する検討
1.序論
行為障害の症例では,課題や目的的動作を行う際に自己修正(修正行為)を認める場合は少なくない.また,その修正行為後に適切となる場合と不適切なままの場合があるが,その乖離する要因は検討されていない.今回,行為のうち眼鏡着用に障害を認める2症例(修正行為後適切例と不適切例)を経験し,修正行為後適切となる要因を検討した.
なお,本発表に際し,開示すべきCOI関係にある企業等はない.また院内倫理審査委員会の承認後,症例に本発表に関する説明をし同意を得ている.
2.症例
[症例1]44歳,右利き男性.診断名は脳梗塞後8日で脳出血を発症,病巣は右側の視床と頭頂葉に損傷を認めた.神経学的症状は左不全片麻痺(Ⅱ-Ⅱ-Ⅱ)を認め,感覚障害や視野障害はなかった.神経心理学的症状はMMSE27点,BIT行動性無視検査日本版(以下,BIT)通常検査114点,Kohs立方体組合せテストは練習問題で不可,Luriaの平行四辺形課題1/10,TMT-partA165秒,partB300秒,FAB16/18点であった.
[症例2]85歳,右利き男性.診断名は脳腫瘍,病巣は右側脳室三角部から後角部に損傷を認めた.神経学的症状は運動障害や視野障害は認めず,左上下肢に位置覚の低下を認めた.神経心理学的症状はMMSE20点,BIT通常検査43点,Kohs立方体組合せテストは練習問題で不可,Luriaの平行四辺形課題0/10,TMT-partA・Bともに実施困難,FAB6/18点であった.
3.眼鏡着用障害
[症例1]第30病日に評価.症例1は左片麻痺のため,一連の動作は右手のみで実施した.症例1は左側テンプルが鼻に当たり左側テンプルを耳にかけられなかった.何度か施行錯誤する様子が観察され,最終的には完遂された.外す動作は可能で,内省は「左側がうまくかけられないんだよ」と眼鏡着用困難を認識していた.
[症例2]第77病日に評価.症例2は左側テンプルを開かずに耳にテンプルを合わせていった.何度か施行錯誤するも左側テンプルを開けず,最後までかけられなかった.外す動作は可能で,内省は「かけられた」と眼鏡着用が困難である認識はなかった.
4.考察
症例1は修正行為後適切で,症例2は修正行為後不適切であった.合併症状は,両例で共通する点が多いが,症例2のみ前頭葉機能低下が疑われた.また両例の眼鏡着用障害に対する内省は異なった発言内容であった.症例1は眼鏡着用が困難であることを認識し,症例2は認識していなかった.境ら(2001)は着用動作のうち着衣に着目し,症状の洞察が成功の必要条件であると指摘した.つまり今回の結果から,眼鏡着用も例外でなく,自身の眼鏡着用に対する洞察が可能な場合,修正行為後に適切となると推測される.
病巣に関して,2例とも視床と側頭葉内側面下部,頭頂葉下部の損傷で,症例2は脳腫瘍の浮腫により周辺が強く圧排され,特に前頭葉下部への伸展が強い.前頭葉は,自己モニターを担う部位とされ(Petrides M:1996),症例2はこの機能低下が影響したと予想される.症例2は症例1に比べFABは低値で,さらに合併症状も重症であった点からも,同部位の損傷の影響は首肯される.つまり修正行為後適切となる場合は,前頭葉機能が保たれていること,病巣が前頭葉かつ広範に認めないことが挙げられた.
5.結語
眼鏡着用障害に対して修正行為後適切となる要因には,障害に対する適切な内省ができることと,前方領域が保たれ広範な損傷部位ではないことが関連すると考えられた.
行為障害の症例では,課題や目的的動作を行う際に自己修正(修正行為)を認める場合は少なくない.また,その修正行為後に適切となる場合と不適切なままの場合があるが,その乖離する要因は検討されていない.今回,行為のうち眼鏡着用に障害を認める2症例(修正行為後適切例と不適切例)を経験し,修正行為後適切となる要因を検討した.
なお,本発表に際し,開示すべきCOI関係にある企業等はない.また院内倫理審査委員会の承認後,症例に本発表に関する説明をし同意を得ている.
2.症例
[症例1]44歳,右利き男性.診断名は脳梗塞後8日で脳出血を発症,病巣は右側の視床と頭頂葉に損傷を認めた.神経学的症状は左不全片麻痺(Ⅱ-Ⅱ-Ⅱ)を認め,感覚障害や視野障害はなかった.神経心理学的症状はMMSE27点,BIT行動性無視検査日本版(以下,BIT)通常検査114点,Kohs立方体組合せテストは練習問題で不可,Luriaの平行四辺形課題1/10,TMT-partA165秒,partB300秒,FAB16/18点であった.
[症例2]85歳,右利き男性.診断名は脳腫瘍,病巣は右側脳室三角部から後角部に損傷を認めた.神経学的症状は運動障害や視野障害は認めず,左上下肢に位置覚の低下を認めた.神経心理学的症状はMMSE20点,BIT通常検査43点,Kohs立方体組合せテストは練習問題で不可,Luriaの平行四辺形課題0/10,TMT-partA・Bともに実施困難,FAB6/18点であった.
3.眼鏡着用障害
[症例1]第30病日に評価.症例1は左片麻痺のため,一連の動作は右手のみで実施した.症例1は左側テンプルが鼻に当たり左側テンプルを耳にかけられなかった.何度か施行錯誤する様子が観察され,最終的には完遂された.外す動作は可能で,内省は「左側がうまくかけられないんだよ」と眼鏡着用困難を認識していた.
[症例2]第77病日に評価.症例2は左側テンプルを開かずに耳にテンプルを合わせていった.何度か施行錯誤するも左側テンプルを開けず,最後までかけられなかった.外す動作は可能で,内省は「かけられた」と眼鏡着用が困難である認識はなかった.
4.考察
症例1は修正行為後適切で,症例2は修正行為後不適切であった.合併症状は,両例で共通する点が多いが,症例2のみ前頭葉機能低下が疑われた.また両例の眼鏡着用障害に対する内省は異なった発言内容であった.症例1は眼鏡着用が困難であることを認識し,症例2は認識していなかった.境ら(2001)は着用動作のうち着衣に着目し,症状の洞察が成功の必要条件であると指摘した.つまり今回の結果から,眼鏡着用も例外でなく,自身の眼鏡着用に対する洞察が可能な場合,修正行為後に適切となると推測される.
病巣に関して,2例とも視床と側頭葉内側面下部,頭頂葉下部の損傷で,症例2は脳腫瘍の浮腫により周辺が強く圧排され,特に前頭葉下部への伸展が強い.前頭葉は,自己モニターを担う部位とされ(Petrides M:1996),症例2はこの機能低下が影響したと予想される.症例2は症例1に比べFABは低値で,さらに合併症状も重症であった点からも,同部位の損傷の影響は首肯される.つまり修正行為後適切となる場合は,前頭葉機能が保たれていること,病巣が前頭葉かつ広範に認めないことが挙げられた.
5.結語
眼鏡着用障害に対して修正行為後適切となる要因には,障害に対する適切な内省ができることと,前方領域が保たれ広範な損傷部位ではないことが関連すると考えられた.