第56回日本作業療法学会

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ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-1] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 1

Fri. Sep 16, 2022 12:00 PM - 1:00 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PK-1-4] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 1記憶障害によるメモの強迫的使用に対し情緒に焦点を当て生活自己管理を目指した事例

作業遂行6因子分析ツール(OPAT6)を用いて

田平 貴也1登立 奈美1坂田 祥子2小林 幸治3 (1医療法人三九会三九朗病院,2医療法人社団保健会東京湾岸リハビリテーション病院,3目白大学保健医療学部作業療法学科)

【はじめに】今回,低酸素脳症後に重度エピソード記憶の低下を呈し,現状理解に至らない事により不安に陥り,メモの強迫的使用を生じた症例を経験した.筆者らは,対象者の主体的な作業の実行状況(参加)に焦点を当て,その状態に変化をもたらすキー因子を推定してアプローチ計画を行いやすくする「作業遂行6因子分析ツール」(以下,OPAT6)を開発している.症例の生活の自己管理という課題に対して,現状に最も影響を及ぼすキー因子を「情緒」と据え, OPAT6を用いてアプローチ計画を立案,関わった結果,時間に合わせた行動が可能となり,情緒の安定に至ったため,報告する.
【事例】低酸素脳症後に高次脳機能障害を呈したA氏50歳代女性,病前は息子と2人暮らし,X-2年より筋原線維性ミオパチーで通院し,階段や床移乗に支持物が必要だがADL・IADLは自立していた.発症前にコロナ禍で失職していた.現病歴は意識消失後,人工肺・人工呼吸器を用い,X+27日ペースメーカー埋め込み術を施行.X+48日に回復期リハ病棟へ入院した.発表にあたり同意書への署名と当院の倫理委員会の承諾を得た.
【初期評価】身体機能は四肢中枢部MMT4,ADLは立位動作で見守り.高次脳機能はMMSE21点,重度エピソード記憶低下,約10年の逆行性健忘も認めたが,その場限りの依頼の実行は可能で記憶障害の病識もあった.しかし,症例は記憶保持低下や病前記憶の欠損に対する〈認識〉不足により〈情緒〉が不安に陥っていた.落ち着かせるため,ひたすらメモを記入・確認していたが現状理解は困難だった.これより,OPAT6により焦点を当てるべき症例の作業遂行上の課題を「病棟生活の予定管理」とし,介入方針は症例が〈情緒〉を安定させる手段を尊重・調整し現状理解が出来る〈認識〉へ繋げ,その後の〈活動能力〉の発展への基盤作りとした.(註)〈山かっこ〉はOPAT6の因子名を示す.
【経過と結果】第1期「不安の受容と解消方法を検討した時期」X+49~70日:OTRは症例の不安によるメモの強迫的使用を受容し,書くことを止めず落ち着ける記載方法を一緒に検討した.メモに付箋を用い予定/出来事/重要な事に分類,内容の整理ができるように誘導した結果,メモでその日の予定を把握できた.第2期「限られた生活で自信を持てた時期」X+71~85日:メモにて一旦の落ち着きはあったが,情報の取捨選択が出来ず焦りや混乱を認めた.OTRは傾聴と共に,メモ量の多さの気付きと症例の解決思考への援助を心掛け,メモに要否のチェック欄を設けた.その結果,メモ確認時間の減少,自室環境を整理する〈情緒〉の余裕を認めた.第3期「生活管理を目指した時期」X+86~100日:内服管理と時間に合わせた行動の新規課題への自己解決が出来ず混乱を強めた.OTRは繰り返しの訴えも受容し,適宜解決方法を確認し肯定した.メモ記載の色を自分の考え/他者から依頼されたこと/過去の事象で思い出した事に分け,内服カレンダーを用いた.その結果,内服を含めた予定管理が可能になった.
【考察】症例は記憶障害の病識はあったが,その反面で不安や混乱を強め,防衛反応としてメモの強迫的使用を生じた.訴えの傾聴と不安を受容し寄り添った事で不安解消への動機づけから実生活でメモの効果的な活用に繋がり,正しい自己認識と不安発生の抑制ができたと考える.また自己解決の促進と成功体験により「病棟生活の予定管理」に繋がったと考える.OPAT6で因果関係を捉え,キー因子を特定する事で早期から対象者の主体的な作業の実現へ関われる可能性があるのではないか.