第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-1] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 1

2022年9月16日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PK-1-6] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 1高次脳機能障害者に対するグループ練習の取り組み

試験的研究として支援に関わる作業療法士向けのテキストを使用した試み

宮下 幸久1松原 麻子1矢田 かおり1 (1広島市立リハビリテーション病院リハビリテーション技術科)

【序論】
当院では,病識改善,日常生活活動の能力向上を目的とした高次脳機能障害者に対する集団訓練(以下グループ練習)を,2018年から実施している.筆者は,グループ練習に関わることで,対象者と他参加者との相互交流が,同じ悩みを持つ他者という比較対象や支えとなる存在をつくり,高次脳機能障害と向き合う助けとなることを経験した.また,それは高次脳機能に関する基礎的な知識を学ぶ機会への参加をすすめ,病識における知的気づきの変化がみられることがわかった.一方で,対象者に応じた経験的気づきや予測的気づきの変化と日常生活活動の能力向上には対象者の到達度に差があり,当院のグループ練習における課題となっていた.そのため,課題の解決に向けてグループの構造因子を見直し,グループ練習に参加する作業療法士の役割に焦点をあてて取り組むこととした.具体的には,グループ練習に参加する作業療法士が,グループの構造とプロセスに応じたはたらきかけが行えるように,それらに関連した知識や考え方を補助する目的でテキストを作成して実際に使用した.そこで,今回は試験的研究として,グループ練習に参加する作業療法士向けに作成したテキストの使用における効果の検証を行ったため報告する.
【方法】
グループ練習に関わる当院の作業療法士7名を対象とし,テキストの使用前後にクイズを行い,正答率の差を比較した.テキストは,高次脳機能障害のグループ練習に携わる1名の作業療法士によって作成され,さらに別の2名の作業療法士によって内容が検討され,完成した.内容は,集団機能,高次脳機能に関する基礎知識,グループの構造とプロセスに応じた作業療法士のはたらきかけの具体例に関する項目が含まれていた.クイズは,テキストの内容にそって,集団機能の基礎知識4問,高次脳機能の基礎知識3問,構造とプロセスに応じたスタッフのはたらきかけ3問の計10問の設問で,選択式の回答とした.クイズの内容は,テキスト使用前後ともに同様のものとした.また,クイズには自由記載欄を設け,テキストを使用してグループ練習支援に関わった感想を集約した.
テキスト使用前後のクイズの結果の比較にはウィルコクソンの符号順位検定を行い,有位水準は5%とした.尚,本研究は当院の倫理委員会の承認を得て行った.
【結果】
テキスト使用前後のクイズの結果に有意差が認められた(使用前75.6±20.28,使用後94.28±10.00,P=0.02).実際にテキストを使用してグループ練習支援に関わった感想の集約では,「力動をよみとる参考となった」「集団の治療因子を選択できた」という集団機能の基礎知識が得られたことに関する内容が挙げられた.また,「集団機能をふまえて対象者の病識の階層に応じた支援を検討できた」というグループ練習内での具体的なはたらきかけに関する内容も挙げられた.
【考察】
グループ練習に参加する作業療法士向けに作成したテキストの使用前後でのクイズの結果から,テキストを使用することで集団機能,高次脳機能に関する基礎知識の学習と把握が促され,グループ構造とプロセスに応じたはたらきかけを検討する参考となった可能性が考えられた.さらに,実際にテキストを使用してグループ練習支援に関わった感想の集約結果をあわせると,特に集団機能に関する基礎知識の学習と把握がすすんだために,集団機能と臨床で関わる機会の多い高次脳機能の状態をあわせて検討することができ,グループ練習内での具体的なはたらきかけに展開したのではと推察した.今後は,実際に対象者への支援状況や病識に変化が起こったかを確認することで,効果検証をすすめることができると考える.