[PK-3-1] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 3左半球損傷による身体失認に対して末梢神経感覚療法と視覚的フィードバックにより利き手の機能再獲得に至った一例
【はじめに】身体失認は,ADLや利き手の機能再獲得の阻害因子となりやすく,通常右半球損傷で起こるとされている.近年,振動刺激がもたらす感覚運動情報が運動錯覚を惹起すると言われており,右半球損傷による身体失認に対して振動刺激を実施した事例報告もある.しかし,左半球損傷で身体失認を認め,急性期での作業療法介入報告は少なく,確立された介入方法もない.そこで今回左半球損傷により身体失認を認め,利き手の身体所有感や運動主体感が低下し,ADL能力低下や利き手の不使用さを認めた事例に対し,従来より報告のある視覚的フィードバックに加え,課題指向型練習と運動学習を促進すると考えられる末梢神経感覚刺激刺激(以下,PSS)を併用することで,利き手の機能再獲得に至った一例を経験したため報告する.なお,本事例報告は書面にて同意を得た.
【事例紹介】既往歴がない51歳男性.右利き.出張先からの帰宅途中,左上下肢の動かしにくさを自覚し救急要請した.入院時,一過性脳虚血発作と診断されたが,第2病日の頭部MRIで,脳静脈洞血栓症と診断され,抗凝固療法およびリハビリテーションを開始した.第3病日の頭部CTで,右前頭葉,頭頂葉,左頭頂葉に脳出血を認めた.同日,静脈洞が閉塞し,血栓回収術を施行した.第4~7病日は安静度に伴いベッド上で介入した.
【初期評価(第8~10病日)】JCS1.左上下肢は著明な神経所見なし.右上下肢は,BRS上肢5手指5下肢5,FMA上肢運動項目は54/66点.右上下肢の表在感覚は軽度鈍麻,位置覚は重度鈍麻であった.また,MMSE-J17/30点,HDS-R12/30点,RCPM13/36点と全般性認知機能低下を認めた.BITは91/146点で右半側空間無視を認め,身体描画試験では線を5本描くのみで人の形にならなかった.右上肢全体の動作は手指巧緻動作含め全て努力的で「右手が自分の腕じゃないみたい」「クレーンゲームをしているみたい」や車椅子のアームレストを「自分の手です」という発言が聞かれた.基本動作,ADLは要介助で動作には殆ど利き手である右手の参加は見られなかった.
【経過】介入初期の基本動作,ADL練習では,利き手での動作は努力的で,非利き手で代償することも多く,身体所有感や運動主体感の低下は改善しなかった.第22病日より上記に加え,課題指向型練習とPSSの併用や,写真を使用した視覚的な手の模倣練習,視覚的フィードバックを用いたプレシェーピング練習を実施した.
【最終評価(第35~37病日)】身体失認は消失し,上記発言は聞かれなくなった.BRS上肢6手指6下肢6,FMA65/66点と向上し,位置覚障害のみ軽度残存した.BITは141/146点と向上したが,構成障害や視空間認知機能低下は残存した.身体描画試験は,全身が描かれ,顔のパーツや手指,服の描写も見られた.病棟内ADLは利き手で概ね自立し,利き手の不使用は改善した.
【考察】本事例は,左頭頂葉に出血を認め,体性感覚の照合を担う背背側視覚路や各感覚機能からの情報統合を担う腹背側視覚路が損傷し各感覚機能の情報統合不全が起こったと考えられる.故に介入初期の通常の作業療法介入では身体の位置や運動を認知しにくく身体所有感や運動主体感の低下により運動イメージが想起できなかったと考えられる.今回実施した課題指向型練習とPSSの併用により,運動学習が促進され運動主体感の出現に寄与したと思われ,さらに視覚的フィードバックを用いた模倣練習やプレシェーピング練習が視覚的に運動を認識させることに繋がり,身体所有感や運動主体感を向上させ,利き手の機能再獲得の一助となったと考えられる.
【結語】左半球損傷による身体失認に対する急性期作業療法介入として,課題指向型練習とPSSの併用および視覚的フィードバックは有効である可能性が示唆された.
【事例紹介】既往歴がない51歳男性.右利き.出張先からの帰宅途中,左上下肢の動かしにくさを自覚し救急要請した.入院時,一過性脳虚血発作と診断されたが,第2病日の頭部MRIで,脳静脈洞血栓症と診断され,抗凝固療法およびリハビリテーションを開始した.第3病日の頭部CTで,右前頭葉,頭頂葉,左頭頂葉に脳出血を認めた.同日,静脈洞が閉塞し,血栓回収術を施行した.第4~7病日は安静度に伴いベッド上で介入した.
【初期評価(第8~10病日)】JCS1.左上下肢は著明な神経所見なし.右上下肢は,BRS上肢5手指5下肢5,FMA上肢運動項目は54/66点.右上下肢の表在感覚は軽度鈍麻,位置覚は重度鈍麻であった.また,MMSE-J17/30点,HDS-R12/30点,RCPM13/36点と全般性認知機能低下を認めた.BITは91/146点で右半側空間無視を認め,身体描画試験では線を5本描くのみで人の形にならなかった.右上肢全体の動作は手指巧緻動作含め全て努力的で「右手が自分の腕じゃないみたい」「クレーンゲームをしているみたい」や車椅子のアームレストを「自分の手です」という発言が聞かれた.基本動作,ADLは要介助で動作には殆ど利き手である右手の参加は見られなかった.
【経過】介入初期の基本動作,ADL練習では,利き手での動作は努力的で,非利き手で代償することも多く,身体所有感や運動主体感の低下は改善しなかった.第22病日より上記に加え,課題指向型練習とPSSの併用や,写真を使用した視覚的な手の模倣練習,視覚的フィードバックを用いたプレシェーピング練習を実施した.
【最終評価(第35~37病日)】身体失認は消失し,上記発言は聞かれなくなった.BRS上肢6手指6下肢6,FMA65/66点と向上し,位置覚障害のみ軽度残存した.BITは141/146点と向上したが,構成障害や視空間認知機能低下は残存した.身体描画試験は,全身が描かれ,顔のパーツや手指,服の描写も見られた.病棟内ADLは利き手で概ね自立し,利き手の不使用は改善した.
【考察】本事例は,左頭頂葉に出血を認め,体性感覚の照合を担う背背側視覚路や各感覚機能からの情報統合を担う腹背側視覚路が損傷し各感覚機能の情報統合不全が起こったと考えられる.故に介入初期の通常の作業療法介入では身体の位置や運動を認知しにくく身体所有感や運動主体感の低下により運動イメージが想起できなかったと考えられる.今回実施した課題指向型練習とPSSの併用により,運動学習が促進され運動主体感の出現に寄与したと思われ,さらに視覚的フィードバックを用いた模倣練習やプレシェーピング練習が視覚的に運動を認識させることに繋がり,身体所有感や運動主体感を向上させ,利き手の機能再獲得の一助となったと考えられる.
【結語】左半球損傷による身体失認に対する急性期作業療法介入として,課題指向型練習とPSSの併用および視覚的フィードバックは有効である可能性が示唆された.