第56回日本作業療法学会

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ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-4] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 4

Fri. Sep 16, 2022 3:00 PM - 4:00 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PK-4-2] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 4鏡像での自己認知による自発性の神経機構への効果

山下 祐輔1 (1IMSグループ医療法人社団明芳会 板橋中央総合病院リハビリテーション科)

【はじめに】臨床現場では身体機能は保っているが自発性が低下しているために日常生活動作(Activities of Daily Living;以下ADL)が向上しない症例を多くみかける.自発性の神経機構としてLevyら1)は「情動・感情的」,「認知的(遂行機能)」,「自動活性化」の3つの処理過程が関係していると報告している.情動・感情には前頭連合野腹側部,遂行機能には前頭連合野背外側部,自動活性化には前頭連合野内側部が関与しており,どれか1つでも障害されれば自発性低下を認めるとされる.現状自発性のメカニズムは解明されつつあるが,自発性低下に対する有効な作業療法による介入手段の報告は見られない.
【目的】臨床現場で鏡像での自己認知(以下鏡像認知)と整容動作を行う介入を継続することで自発性の向上を果たす症例を多く経験した.そこで本研究は鏡像認知の自発性に対する効果を明らかにすることとした.
【方法】対象者は健常な男女19名(25.7±3.2歳)で除外基準は色覚異常を有し,刺激の文字を読むのに十分な視力が無い者とした.研究の倫理的配慮としてヘルシンキ宣言に基づき,対象者へ口頭で十分な説明をした後に同意を得た.
 計測は鏡像認知の前後で気分プロフィール検査(Profile of Mood States;以下POMS),とStroop test,標準意欲評価法(Clinical Assessment for Spontaneity;以下CAS)を行った.鏡像認知は卓上に鏡を置き5分間注視するのみとした.評価の順番は被験者毎にランダムに決定した.
 解析方法は改変Rコマンダーを使用し,鏡像認知前後での差をWilcoxon符号付順位検定で分析し,有意水準はP<0.05とした.
【結果】POMSでは緊張-不安,抑うつ落ち込み,怒り敵意,疲労で有意に得点が減少した(p<0.05).活気項目には有意差を認めなかった.Stroop testではPart1の所要時間と誤反応数で有意に減少した(P<0.05).Part1の誤反応数とPart2の所要時間で有意差を認めなかった.CASでは有意差を認めなかった.
【考察】自発性の神経機構である3つの処理過程の中で遂行機能を評価したStroop testと自動活性化を評価したCASの結果から鏡像認知により,遂行機能に影響を与えて自発性の向上に効果があるとは言えなかった.
 しかし,情動・感情を評価したPOMSの得点の変化に有意差を認めたことから鏡像認知によりネガティブ感情は改善する効果があると考える.松田ら2)は鏡像認知への単純接触が自己評価への好感度増加に影響があると報告している.鏡を見る行動はヒトにとって習慣的なことであり,自分の顔は見慣れたものであるため,鏡像認知により情動を生起しネガティブ感情を改善したと考える.
 本研究にて,鏡像認知が自発性の神経機構に必要な情動・感情的処理に対する効果が明らかとなった.ただ,鏡像認知による単体での介入では,自発性の向上が得られるとは言えない.臨床では鏡像認知に加えて整容動作を行うことで自発性の向上が可能となったため,鏡像認知に作業を加えた複合的な介入では自発性に対する効果が得られるのではないかと考えている.今後は鏡像認知と作業による複合的な介入での自発性に対する効果を検証する必要がある.
【引用文献】
1) Levy, R. & Dubois, B.:Apathy and the functional anato- my of the prefrontal cortex-basal ganglia circuits. Cereb. Cortex, 16:916-928, 2006.
2) 松田憲・荻野優香・三浦佳世・楠見孝 (2015). 自己鏡像への単純接触効果が自己評価に及ぼす影響 日本心理学会第79回大会発表論文集,599.