第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-4] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 4

2022年9月16日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PK-4-4] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 4失行症,失語症,病識低下を呈した事例に対する独居生活再開に向けた作業療法

秋山 尚也1丸井 美奈1 (1浜松市リハビリテーション病院リハビリテーション部)

【はじめに】事例は脳梗塞により失行症,失語症,病識低下を呈していた.独居生活に向け多職種チームアプローチ,環境調整を実施し独居生活を再開した.退院後も独居生活を継続できている.現在の生活状況を踏まえ,医療機関に求められる支援について考察を交え報告する.発表にあたり事例の同意を得ている.
【事例紹介】事例は70代男性.診断名は左中大脳動脈領域の脳梗塞.x日発症.x+15日に当院転院.入院前は独居生活で,趣味のカメラ,カラオケ,兄弟とのドライブ旅行を楽しんでいた.近隣に弟が生活している.Needsは在宅生活復帰,運転再開であった.
【評価】当院入院時,運動麻痺は認めなかったが,日常生活でスプーンや櫛を裏表逆に持つ,髭剃りが肌にフィットしない,携帯電話が使えない,コミュニケーションがとれずイライラする等がみられた.事例からは「問題ない」との発言が繰り返しきかれた.神経心理学的検査ではSPTAを実施,上肢での習慣的動作,客体のない動作,物品使用で拙劣さや錯行為,修正行為がみられた.観念失行,観念運動失行,感覚性失語,病識低下を認めた.
【OT指針】日常物品が正しく使用でき,安全にADL遂行できる.家事動作一部再開を目標とした.
【経過】前期(入院~1ヵ月):日常生活では道具を逆に持つなどのエラーがみられたが,道具や環境に慣れるとエラーは減少した.リハビリに対しては,「全部できる」との発言が多く聞かれた.OTでは作業活動や体操を通して正しい道具の操作方法や模倣動作を練習した.STではコミュニケーションの練習を行った.
後期(1ヵ月~2ヵ月):病棟内の生活は環境に慣れ,道具の使用時に拙劣さがみられたが,入浴以外のADLは自立した.看護師は服薬管理やスケジュール管理を指導し,OTではIADL練習を実施した.x+2ヵ月,自宅で家事動作評価を実施した.洗濯機や電子レンジの操作は試行錯誤する様子や,IHコンロではお湯が沸いていても気付かない事がみられた.本人からは「問題ない」との発言がきかれた.翌週,退院前カンファレンスを実施した.家族は「本人の希望も強く,兄弟で面倒をみます」との発言きかれた.本人,家族,ケアマネジャーも含め退院後のサービス選定や,約束事としてIHコンロは使わない,運転はしない等を書面に記載し共有した.OT,STは家族に対して家電の操作方法,コミュニケーションのとり方を数回指導した.x+3ヵ月で環境・サービス調整を行い自宅退院となった.
【結果】日常生活では道具使用時の拙劣さは減少し,繰り返しの予定は理解し時間前に準備できるようになり,服薬も一包化してあれば飲み忘れはなくなった.ADLは入浴も含め自立となった.高次脳機能は失行症,失語症,病識低下は残存している.
退院後2年以上経過し独居生活を継続できている.退院後,自己判断で運転をしてしまう,サービスの回数を減らしてしまう等がみられたが,現在運転は中止し週1回のデイケア,訪問リハビリ,配食サービスを利用し,近隣の兄弟の支援を受けながら在宅生活を送っている.
【考察】原ら(2017年)は失行者に対する長期の支援は必要でありADL自立後も生活を見直す節目には作業療法が導入されるべきと述べている.事例は,失行症に加え失語症,病識低下など重複した障害像を呈しており,環境調整等の外的アプローチが有効と思われた.OTは症状や残存能力の把握,家族指導に加え,在宅生活で予想される問題を考慮した支援体制を整えておく必要がある.地域を含めた多職種と連携を図り,退院後問題が発生した時に,地域のみならず医療機関も含めて問題解決できる包括的かつ長期的な支援が提供されることが望ましいと考えられた.