[PK-4-5] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 4失行に対する模倣課題を用いた治療的介入の効果
モデルの向きを変えた模倣課題
【報告の目的】
失行により歯磨きに支障をきたした脳卒中右片麻痺者に対し,モデルの向きを段階付けした模倣課題を実施した結果,症状の軽減に至ったため報告する.
【事例紹介】
事例は5カ月前に左脳出血(前頭葉・頭頂葉皮質下)を発症し,右片麻痺を呈した60代女性である.急性期病院と回復期病院を経由して介護老人保健施設へ入所となった.主訴は「歯磨きが上手くできない」であった.尚,事例から報告の同意を得ている.
【作業療法評価】
右上下肢の運動麻痺はBRSでIIIであり,感覚は重度鈍麻していた.言語は標準失語症検査(SLTA)にて短文の聴理解,呼称の正答率が80%で,喚語困難,錯語,保続を認めた.コース立方体組み合わせテスト(KBDT)はテストNo.1のみ得点し,IQは38と低下していた.高難度の「間違い探し」が行える一方,数ピースからなる低難度のジグソーパズルは構成困難であった.標準高次動作性検査(SPTA)は右上下肢を使用する項目を除外し,誤反応得点は71/100であった.慣習的動作のジェスチャー,物品使用のパントマイム,物品使用ともに口頭命令と模倣のいずれにおいても空間的・時間的誤反応を認めた.一方,概念的誤反応はみられなかった.尚,SPTAで使用される物品は,物品名の聴覚提示,物品使用のパントマイムの視覚提示のいずれにおいても選択可能であり,行為概念は保たれていた.模倣の際は,モデルが模倣する者と対面する「鏡模倣」に比べ,モデルが模倣する者と同方向を向く「同方向模倣」の反応が良好であった.入浴以外のADLは車いすを使用して概ね自立していたが,行為全般的に不要な関節運動が付加したり,動作の振幅が増減・不規則化したりと拙劣さを認めた.歯磨きは肩関節の過剰な外転,持ち方の異常,動作の振幅の増減・不規則化を認め,歯に対しブラシ部分を適切に当てることが困難で,特に右奥歯を磨く際は顕著であった.
【介入の基本方針】
事例の失行は,空間的・時間的誤反応を特徴とする行為産生系の障害が想定され,視覚―運動変換(乾,1998)に支障をきたしていると推察した.失行の改善を目的に模倣課題を導入した.
【作業療法実施計画】
介入は1回20分,週5回の頻度で3カ月実施した.上肢・手指の様々な形態について,「同方向模倣」と「鏡模倣」を段階的に実施した.また,使用する関節は単関節から開始し,徐々に多関節へと難易度を調節した.
【介入経過・結果】
運動機能,言語機能は著変なし.KBDTのIQは73,SPTAの誤反応得点は24/100となった.物品使用のパントマイム障害は残存していたが,慣習的動作のジェスチャーや物品使用は著しい改善を認めた.歯磨きは軽度の拙劣さが残存するものの,肩関節の過剰な外転,持ち方,動作の振幅の増減・不規則化が軽減し,右奥歯を含めて磨くことが可能となった.
【考察】
「鏡模倣」は,対象の視覚像(例えば手掌)と自己の視覚像(例えば手背)が異なるため,他者視点から自己視点への切り替え,つまり,運動前野や補足運動野が関与する身体表象の心的操作が必要である(渡部,2013).視点の切り替えを必要としない「同方向模倣」は低難度であり(新垣,2018),今回の段階的な模倣課題が身体表象の操作を向上させたと考える.
失行により歯磨きに支障をきたした脳卒中右片麻痺者に対し,モデルの向きを段階付けした模倣課題を実施した結果,症状の軽減に至ったため報告する.
【事例紹介】
事例は5カ月前に左脳出血(前頭葉・頭頂葉皮質下)を発症し,右片麻痺を呈した60代女性である.急性期病院と回復期病院を経由して介護老人保健施設へ入所となった.主訴は「歯磨きが上手くできない」であった.尚,事例から報告の同意を得ている.
【作業療法評価】
右上下肢の運動麻痺はBRSでIIIであり,感覚は重度鈍麻していた.言語は標準失語症検査(SLTA)にて短文の聴理解,呼称の正答率が80%で,喚語困難,錯語,保続を認めた.コース立方体組み合わせテスト(KBDT)はテストNo.1のみ得点し,IQは38と低下していた.高難度の「間違い探し」が行える一方,数ピースからなる低難度のジグソーパズルは構成困難であった.標準高次動作性検査(SPTA)は右上下肢を使用する項目を除外し,誤反応得点は71/100であった.慣習的動作のジェスチャー,物品使用のパントマイム,物品使用ともに口頭命令と模倣のいずれにおいても空間的・時間的誤反応を認めた.一方,概念的誤反応はみられなかった.尚,SPTAで使用される物品は,物品名の聴覚提示,物品使用のパントマイムの視覚提示のいずれにおいても選択可能であり,行為概念は保たれていた.模倣の際は,モデルが模倣する者と対面する「鏡模倣」に比べ,モデルが模倣する者と同方向を向く「同方向模倣」の反応が良好であった.入浴以外のADLは車いすを使用して概ね自立していたが,行為全般的に不要な関節運動が付加したり,動作の振幅が増減・不規則化したりと拙劣さを認めた.歯磨きは肩関節の過剰な外転,持ち方の異常,動作の振幅の増減・不規則化を認め,歯に対しブラシ部分を適切に当てることが困難で,特に右奥歯を磨く際は顕著であった.
【介入の基本方針】
事例の失行は,空間的・時間的誤反応を特徴とする行為産生系の障害が想定され,視覚―運動変換(乾,1998)に支障をきたしていると推察した.失行の改善を目的に模倣課題を導入した.
【作業療法実施計画】
介入は1回20分,週5回の頻度で3カ月実施した.上肢・手指の様々な形態について,「同方向模倣」と「鏡模倣」を段階的に実施した.また,使用する関節は単関節から開始し,徐々に多関節へと難易度を調節した.
【介入経過・結果】
運動機能,言語機能は著変なし.KBDTのIQは73,SPTAの誤反応得点は24/100となった.物品使用のパントマイム障害は残存していたが,慣習的動作のジェスチャーや物品使用は著しい改善を認めた.歯磨きは軽度の拙劣さが残存するものの,肩関節の過剰な外転,持ち方,動作の振幅の増減・不規則化が軽減し,右奥歯を含めて磨くことが可能となった.
【考察】
「鏡模倣」は,対象の視覚像(例えば手掌)と自己の視覚像(例えば手背)が異なるため,他者視点から自己視点への切り替え,つまり,運動前野や補足運動野が関与する身体表象の心的操作が必要である(渡部,2013).視点の切り替えを必要としない「同方向模倣」は低難度であり(新垣,2018),今回の段階的な模倣課題が身体表象の操作を向上させたと考える.