第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-5] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 5

2022年9月17日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PK-5-1] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 5失行症の遷延が自己意識の変容による注意機能障害に起因すると考えられた一症例

尾科 洋輔1 (1一般社団法人巨樹の会江東リハビリテーション病院リハビリテーション科)

【はじめに】失行は失語症の合併が多く,患者自身の訴えがなく発見されにくい.今回,左大脳半球損傷により食事動作が困難となった症例を失行症として病態解釈し介入した.経過で注意機能障害も認められ,視覚と運動統合の繰り返しにかかわる神経基盤の損傷が注意機能にも影響を与え,失行症状を増悪させたと考えられたため報告する.
【症例紹介】今回の発表に関する説明と同意に関して紙面にて了解を得た.
80歳代女性.右利き.左内頚動脈の閉塞による前-頭頂葉領域含む広範囲の左大脳半球梗塞を認めた.第27病日目に当院.入院時,経口摂取は困難で経鼻管を使用しており,経鼻管抜管後,第46病日目より食事動作に対する介入を開始.病的反射Hoffmann,Tremner,Wrtenberg陰性.伸張反射は左右上肢で亢進.筋緊張は右肩,肘,手指関節亢進. Brunstrom stageII-II-IIで随意運動認めない.重度失語症を呈しており自発書字,文字了解困難. De-Renziの模倣検査(左上肢で実施)0点.「グー,チョキ,パー」模倣時保続認める. Grade-4/5MAL(客観評価にて実施)0.食事動作は左空間に器を設置,左上肢でスプーンを使用し実施.スプーン把持可能だが,「かき集める」などの行為は出現しない.模倣でかき集め動作も困難.スプーンへの到達把握動作時は右空間で困難.左右空間の物体認知に非対称性を認め,第54病日目に@attention実施.能動的注意課題はターゲットを繰り返し選択する動作認めるも,妨害刺激を除去すると正しく選択可能.受動的注意課題はルールの理解不良で実施困難.
【病態解釈】感覚情報を統合し行為を計画することが困難な為,運動の結果の予測と実際の感覚フィードバックが統合することによって生起する行為主体感が障害されていると考えられる.行為主体感は潜在的な意識にも影響され,これらの機能不全により意識に上らない前注意過程的な機能の低下が生じて左右空間の選択性注意機能に非対称性を生じさせていると考えられる.行為主体感の改善により右空間の対象を選択する意思決定の手続き機能の向上に繋がると考えられる.
【介入と結果】課題は左上肢で2段階に分け開眼にて実施.身体位置の異なる2種類の写真を用いて提示した写真と同じ手の形になるよう模倣する異種感覚情報の課題(課題1),他動にて患者の左手を形作り,提示した写真のどちらの形になっているか選択する2次元と3次元の視覚情報変換課題(課題2)を実施.課題1は右空間で写真を提示しても実施良好.課題1の正答が保たれた時点で課題2を実施すると4/4で正答可能.第88病日目のDe-renzi模倣テストは8点.@attentionの能動的注意課題は左右空間に反応可能.受動的注意課題は妨害刺激を除去することで右空間の反応可能.食事動作はスプーン操作を能動的に行うことができ自己摂取可能.途中,コップやお手拭きの物品を提供しても道具操作の誤反応はなく操作可能であった.しかし,右空間の器に対しての操作は見られず,介助にて駆動刺激が必要であった.刺激後は自己摂取可能.
【考察】下頭頂小葉は自己の行動をコントロールできているという行為主体感に関わり,これらの機能不全が失行症の根幹と考えられる.異種の感覚情報をマッチングする課題で対象を選択する行為が出現したことは自己のモニタリングする機能が向上し,行為主体感の獲得に繋がったと考えられる.感覚情報を統合し,行為を計画することが可能になり,道具に対する知識が正しく出力され食事動作時にスプーンの道具使用が可能になったと考えられる.これらの自己意識は行為を選択するというワーキングメモリ様の機能が必要で,意思決定が必要な選択性注意の機能と重り,これらの機能不全が左右空間への選択的な注意機能が低下したと考えられる.