[PK-6-1] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 6頭部外傷により高次脳機能障害を呈した症例に対する認知リハビリテーションについて
【はじめに】外傷性頭部外傷は高次脳機能障害を呈する症例が約8割に生じ,記憶障害,注意障害,遂行機能障害に加え,対人技能拙劣や社会的行動障害,病識の欠如が約半数に認められる.近年,高次脳機能障害を呈した患者に対して早期の認知リハビリテーション(以下リハ)が重要であると言われている.今回,早期に認知リハを介入し改善が見られた症例の経過について考察を加え報告する.本症例の発表は患者の同意を得た.【症例】20歳代,男性,右利き.最終学歴は大学中退,職業は運送業であった.【現病歴】仕事中,トラック後方から1m程転落後,嘔吐と健忘があり当院へ救急搬送された.【神経放射線学的所見】第3病日のMRIではFLAIR画像で左前頭葉,側頭葉に高信号を呈する病変が認められ脳挫傷が示唆された.また,T2*ではびまん性軸索損傷が認められた.6病日にてんかんによる意識障害を認めた.【入院時神経学的所見】明らかな麻痺や感覚障害は認められなかった.神経心理学的所見では失語症を認めた.【初期評価】意識障害と嘔気が継続したので25病日より評価開始した.GCSは1点であった.言語機能はSLTAの聴覚的理解は指示命令で1/10,呼称は17/20,読解は指示命令で2/10,書字は漢字単語2/5,カナ単語0/5,計算は 13/20であり,感覚性失語と失読失書,失計算を認めた.また,視空間構成はKohs立方体でIQ73,Reyの複雑図形は模写:19.5点であったが,直後再生と30分後再生では得点できず,構成障害,記銘力の障害も認めた.FIMでは,運動項目47/91点,認知項目11/35点(理解3点,表出2点),合計56/126点で,ADLでは声掛け〜一部介助レベルであり認知機能面の低下を認めた.【訓練および経過】第一段階では,メタ認知訓練,外的補助手段を利用してのADL訓練を行なった.第一段階時は,メンタルや自発性の低下と病識の欠如から訓練拒否を認めた.そこで,病状や現状の理解を一緒に行い,リハの必要性や目標,今後の見通しを説明する事で本症例自らの意思の元,訓練に参加する環境づくりを行った.その結果,リハの必要性を感じて頂く場面や自己分析が可能となる場面が増え,数日でスケジュール表の撤去と病棟ADLが自立レベルにて可能となり,病識への理解促進と本症例の意思決定を促す一因になった.第二段階では,難易度を調節したプリント課題,IADL訓練を行なった.その結果,レベルを上げたプリント課題や多重課題が可能となり,失語症は軽度残存したが,その他の全般的な高次脳機能障害は大幅な回復を認めた.【最終評価】37病日目のGCSでは15点であった.言語機能はSLTAの聴覚的理解は指示命令で9/10,呼称は18/20,読解は指示命令で10/10,書字は漢字単語5/5,カナ単語5/5,計算は 13/20と改善を認めた.視空間構成ではKohs立方体はIQ119,Rey複雑図形は模写で32.5点,直後再生:10点,30分後再生:9.5点と向上を認めた.FIM:運動項目87/91点,認知項目25 /35点(理解5点,表出4点),合計112/126点と改善を認めた.病棟ADLは自立となった.【考察】急性期における認知リハは高次脳機能障害の軽減のみならず,病識の理解や社会的行動の形成が必要となる.阿部ら(2006)は脳外傷者の認知機能では早期に訓練を開始することで回復がよいことを示し,本症例もこれを支持する結果となった.急性期の段階から認知リハを行う事は自己認識を促し,その後の社会生活を過ごしていく上で重要と考えられた.