[PK-6-2] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 6大腿骨近位部骨折術後高齢者の下衣更衣の動作プロセスにおける二重課題干渉と下衣更衣動作自立度との関連
【はじめに】
近年,医療機関における大腿骨近位部骨折(Hip Fracture:HF)術後高齢者は増加傾向にあるが,運動機能や認知機能の低下から,歩行だけでなくセルフケアの再獲得も困難になることが指摘されている.特に下衣更衣は,認知機能や注意機能の影響により,他の刺激が加わると二重課題干渉が起こりうるセルフケアであると推測される.しかし,転倒をはじめとする二重課題干渉の関連についての研究では,二重課題の遂行が歩行における転倒の発生に影響を与えることは明らかになっているが,セルフケアのどの動作プロセスで二重課題干渉が起こるかは明らかではない.そこで本研究では,ズボン着脱の動作プロセスでどのような二重課題干渉が起こるかを明らかにするとともに,二重課題干渉の有無が,ズボン着脱動作の自立度に与える影響を明らかにすることを目的に調査を行った.
【対象および方法】
本研究の対象は,A病院回復期リハビリテーション病棟に2021年5-10月の期間に在棟した,ズボン着脱が自立もしくは監視・声掛けで遂行できるHF術後高齢者21名である.二重課題の評価としては,認知課題(1桁の減算)とズボン着脱を同時に行い,「ふらつき」や「3秒以上止まる」などの運動パフォーマンスの低下が生じた場合を二重課題干渉「有」と判定した.ズボン着脱の動作プロセスはFunctional Dressing Assessment(武田2019)を参考にした.また年齢・性別などの基本的情報のほか,関連評価として認知機能(Mini Mental State Examination),注意機能(Trail Making Test-A, Behavioral Assessment of Attentional Disturbance: BAAD),身体機能として関節可動域・筋力とBerg Balance Scaleの評価を行った.分析は, 二重課題の「干渉有群」と「干渉無群」の2群間で属性を比較し,干渉の有無を2値変数として関連要因分析を行なった(有意水準は5%未満).なお本研究は,対象者の同意とA病院倫理審査委員会で承認を得ている.
【結果】
対象者の平均年齢は85±9.5歳,術側は左下肢が14肢(67%)であった.二重課題干渉は14名(67%)に生じ(全体件数:31件),ふらつきや脱臼肢位といった転倒や脱臼に繋がる危険性のある内容は19件(61%)を占めていた.動作プロセスでは,「左裾を脱ぐ」で8件(26%,術側6件)生じ,そのうち転倒等に繋がる危険な干渉が5件と多かった.また「干渉有群」と「干渉無群」の2群間比較では,基本的情報や認知・身体機能には有意な差はなく,注意機能の行動評価尺度であるBAADが有意に関連している(p=0.037)ことが明らかとなった.さらに二重課題条件下において二重課題干渉が起こりやすい対象者ほど,ズボン着脱が自立していない傾向(p=0.016)にあることがわかった.
【考察】
本研究の結果から以下の示唆が得られた.①「左裾を脱ぐ」の動作プロセスで二重課題干渉が生じた対象者は,転倒や脱臼に繋がる危険性があるため,二重課題干渉の原因となる刺激を少なくするといった環境設定が重要である.②二重課題条件下のズボン着脱動作では,BAADが二重課題干渉の有無を判定する因子として有用である.③下衣更衣動作が自立できるかの判断には,本研究で行った二重課題干渉の有無の判定結果を参考にできる.本研究は横断研究であり,因果関係を断定できないことや症例数が少なく汎用化できない可能性があるため,縦断的な調査や症例数を増やしていくことが今後の課題である.
近年,医療機関における大腿骨近位部骨折(Hip Fracture:HF)術後高齢者は増加傾向にあるが,運動機能や認知機能の低下から,歩行だけでなくセルフケアの再獲得も困難になることが指摘されている.特に下衣更衣は,認知機能や注意機能の影響により,他の刺激が加わると二重課題干渉が起こりうるセルフケアであると推測される.しかし,転倒をはじめとする二重課題干渉の関連についての研究では,二重課題の遂行が歩行における転倒の発生に影響を与えることは明らかになっているが,セルフケアのどの動作プロセスで二重課題干渉が起こるかは明らかではない.そこで本研究では,ズボン着脱の動作プロセスでどのような二重課題干渉が起こるかを明らかにするとともに,二重課題干渉の有無が,ズボン着脱動作の自立度に与える影響を明らかにすることを目的に調査を行った.
【対象および方法】
本研究の対象は,A病院回復期リハビリテーション病棟に2021年5-10月の期間に在棟した,ズボン着脱が自立もしくは監視・声掛けで遂行できるHF術後高齢者21名である.二重課題の評価としては,認知課題(1桁の減算)とズボン着脱を同時に行い,「ふらつき」や「3秒以上止まる」などの運動パフォーマンスの低下が生じた場合を二重課題干渉「有」と判定した.ズボン着脱の動作プロセスはFunctional Dressing Assessment(武田2019)を参考にした.また年齢・性別などの基本的情報のほか,関連評価として認知機能(Mini Mental State Examination),注意機能(Trail Making Test-A, Behavioral Assessment of Attentional Disturbance: BAAD),身体機能として関節可動域・筋力とBerg Balance Scaleの評価を行った.分析は, 二重課題の「干渉有群」と「干渉無群」の2群間で属性を比較し,干渉の有無を2値変数として関連要因分析を行なった(有意水準は5%未満).なお本研究は,対象者の同意とA病院倫理審査委員会で承認を得ている.
【結果】
対象者の平均年齢は85±9.5歳,術側は左下肢が14肢(67%)であった.二重課題干渉は14名(67%)に生じ(全体件数:31件),ふらつきや脱臼肢位といった転倒や脱臼に繋がる危険性のある内容は19件(61%)を占めていた.動作プロセスでは,「左裾を脱ぐ」で8件(26%,術側6件)生じ,そのうち転倒等に繋がる危険な干渉が5件と多かった.また「干渉有群」と「干渉無群」の2群間比較では,基本的情報や認知・身体機能には有意な差はなく,注意機能の行動評価尺度であるBAADが有意に関連している(p=0.037)ことが明らかとなった.さらに二重課題条件下において二重課題干渉が起こりやすい対象者ほど,ズボン着脱が自立していない傾向(p=0.016)にあることがわかった.
【考察】
本研究の結果から以下の示唆が得られた.①「左裾を脱ぐ」の動作プロセスで二重課題干渉が生じた対象者は,転倒や脱臼に繋がる危険性があるため,二重課題干渉の原因となる刺激を少なくするといった環境設定が重要である.②二重課題条件下のズボン着脱動作では,BAADが二重課題干渉の有無を判定する因子として有用である.③下衣更衣動作が自立できるかの判断には,本研究で行った二重課題干渉の有無の判定結果を参考にできる.本研究は横断研究であり,因果関係を断定できないことや症例数が少なく汎用化できない可能性があるため,縦断的な調査や症例数を増やしていくことが今後の課題である.