第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-6] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 6

2022年9月17日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PK-6-3] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 6要介護高齢者のIADL障害に対する病識

本人と主介護者の認識との差異

鈴木 優喜子1須藤 崇行2望月 秀樹1 (1杏林大学保健学部作業療法学科,2介護老人保健施設 野田ライフケアセンター)

【はじめに】認知症患者は,しばしば記憶障害や機能低下を過小評価するなどの病識の低下を示す.病気に対する病識と障害や症状の病識とでは,病識の程度が異なるといわれている.認知症患者を対象とした病識低下に関する先行研究は散見され,それらは,記憶障害に対する病識低下に関する報告のみである.認知症では発症初期より,記憶障害の他にinstrumental activities of daily living(IADL)障害が生じることから,IADL場面における本人の自覚と主介護者の認識の差異,すなわちIADL障害に対する病識低下の出現が,認知症の診断をする際の手がかりの一つになる可能性がある.しかしIADL障害における病識低下については,先行研究において検討されていない.
【目的】要介護高齢者と主介護者を対象として,本人の自覚と主介護者の認識との差異によって病識低下を判定し,参加者の認知症診断の有無におけるIADL障害に対する病識低下の出現者数の差を明らかにする.
【方法】介護老人保健施設に入所した要介護高齢者を対象に,LawtonのIADL尺度を要介護高齢者および主介護者の2者に対して同時に実施し,両者のスコア差(要介護高齢者LawtonのIADL尺度スコア-主介護者LawtonのIADL尺度スコア)をIADLに関する病識低下度とした.認知症診断の有無により2群に分け,2群間における病識低下ありの出現者数の差について比較検討した.本研究は所属施設の倫理審査会の承認を得て実施し,対象者と親族に研究目的・方法について説明し,書面で同意を得た.演題発表に関連し,開示すべきCOI関係にある企業などはない.
【結果】対象は要介護高齢者25名(男性11名,女性14名,平均年齢86.2±6.1歳,平均MMSE19.4 ± 5.1点)であり,そのうち認知症の診断を受けていた者は7名(28%)であった.認知症診断あり群および認知症診断なし群の2群間において,年齢,性別,教育年数,治療継続中の疾患数,内服薬の種類数,MMSEスコア,FIMスコアの有意差は認めなかった.全対象者25名におけるLawton尺度総得点における病識低下ありの出現者数は20名(80%)であった.Lawton尺度の総得点における病識低下ありの出現者数において,認知症診断の有無による2群間で有意差は認めなかった(p = .274, φ = .31).Lawton下位項目においては,認知症診断なし群に比べて診断あり群は,自分の服薬管理における病識ありの出現者数が有意に多かった(p = .030, φ = .47).一方,電話の使用,買い物,移送の形式,財産取扱い能力では,有意な群間差は認めなかった.
【考察】要介護高齢者の大半において,IADL能力障害に対する病識低下を有していることが示された.Lawtonの総得点において病識低下ありの出現者数は2群間で有意差を認めないことから,IADL能力全体でみると,本人の自覚と主介護者による他覚的な評価に差はないことが示された.一方で,Lawtonの下位項目においては,認知症診断あり群では服薬管理に対する病識低下ありの出現者数は診断なし群と比べて有意に多かった.またその効果量は,0.47と比較的高い値を示した.すなわち,IADL全体でみると病識と認知症の診断には関連がないようにみえるが,服薬管理における病識低下は,主介護者が生活上で認知症を疑う手がかりの一つになりうることが示唆された.