第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-6] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 6

2022年9月17日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PK-6-4] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 6リハビリ介入頻度の違いが認知症患者のBPSDに及ぼす影響について

ABABシングルシステムデザインによる検討

横山 太一1 (1済生会新潟病院リハビリテーション科)

【目的】
 回復期リハビリ病棟において,高齢患者は認知症を伴う場合も多く,BPSDの対応に苦慮する場面も多い.本研究では,認知症患者に対して1日のリハビリ介入頻度の違いがBPSDに及ぼす影響を検討した.ヘルシンキ宣言の趣旨に則り実施し,利益相反に関する開示事項は無い.
【症例】
 80代女性.アテローム血栓性脳梗塞の診断で近隣病院から当院回復期リハビリ病棟に転院となる.既往にアルツハイマー型認知症あり.入院時所見は左片麻痺Br.stageⅠ~Ⅱ.基本動作は起居動作が一部介助,移乗・移動は全介助レベル.ADLは食事が一部介助以外は全介助レベル.BI5点.認知機能はMMSE9点と著明な低下あり.BPSDも強く,大声を出す,繰り返し訴える,昼夜逆転等の行動症状や不穏,不安等の心理症状が見られる.DBD32点,BPSD25重症度1)37点,BPSD25負担度1)40点.コミュニケーションは口頭での簡単なやり取りは可能.入院前は息子夫婦と3人暮らしで,デイサービスを利用していた.
【方法】
 シングルシステムデザインにおけるABAB法に基づいた.A期(基礎水準期)は1日2時間を2回に分けてリハビリ介入し,B期(操作導入期)は1日2時間を4回に分けてリハビリ介入した.各介入は90分以上の間隔を開けて行った.各介入期は5日間(月~金)とし,最終日(金)にBI,MMSE,DBD,BPSD25重症度, BPSD25負担度を評価した.DBD,BPSD25重症度, BPSD25負担度の測定は同一の病棟看護師に聞き取りを行った.リハビリの内容はA期とB期同様に一般的な脳卒中リハビリに加え,心理状態に応じてアクティビティや音楽,会話・傾聴等を行った.なお,本介入期間において服薬変更はない.
【結果】
 A期,B期の1回目,2回目をそれぞれA1,A2,B1,B2とし,各評価結果を<A1,B1,A2,B2>の順に示す. BIは<15,20,25,25>,MMSEは<10,14,14,15>,DBDは<36,22,25,18>,BPSD25重症度は<42,28,33,23>,BPSD25負担度は<41,26,26,14>となった.MMSE,DBD,BPSD25重症度,BPSD25負担度はB1,B2期に好転した.BIはB1期に好転した.
【考察】
 長時間低頻度の介入よりも短時間高頻度の介入においてBPSDは好転した.各評価を精査すると昼夜逆転,易怒性,大声,繰り返し質問,不穏の項目で特に改善が見られた.昼夜逆転についてはリハビリ介入頻度が増えたことで日中の活動維持を図ることができ,改善に繋がったのではないか.また,BPSDは認知症の中核症状に身体的,心理的,状況的要因が加わることで出現しやすいと言われている.本症例に関しては,脳梗塞により身体制限が生じたこと,入院による家族との離別や生活環境の変化に対して適応ができず,BPSDが増悪していたと考える.「ここはどこ?」「(迎えに)誰が来る?」等の発言も頻回に聞かれており,不安感や寂しさが窺えた.高頻度の顔見知りのスタッフの介入は患者の安心感に繋がったのではないか.そして,その時々の症例の心理状態やニーズに合わせた対応を提供する機会の増加は,患者が一時的な納得,安心感を得る機会の増加であると言える. BPSD発現に大きく作用する周囲との関わりの中で,そのような機会の増加がBPSDの好転に繋がったと考える.
【結語】
 1日2時間を2回に分けた介入よりも,4回に分けた介入によってBPSDの好転が得られた.
【文献】
1)内藤典子他:BPSDの新規評価尺度:認知症困りごと質問票BPSD+Qの開発と信頼性・妥当性の検討.認知症ケア研究誌2:133-145,2018.