[PK-8-1] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 8認知症高齢者に対するTwiddle Muffの臨床的有用性
【序論】認知症ケアのひとつとしてTwiddle Muff(マフ)が英国で広く使われている.マフとは,筒状に編まれたニット製品であり,リボンやボタンなどのアクセサリーが縫い付けられている.マフに触れることで安心感が得られ患者の精神的ストレスが軽減すると報告されている.しかし本邦でのマフの使用は限定的であり,その臨床的有用性を検証することが課題となっている.マフの有用性が示されれば,より質の高い根拠に基づいた認知症ケアの実践につながると考える.
【目的】本研究は認知症高齢者の精神的ストレスに対するマフの臨床的有用性を検証することを目的として実施した.
【方法】研究の対象は介護保険サービスを利用している「認知症高齢者の日常生活自立度ランク」がⅠからⅢの65歳以上のものとした.日常会話が困難なもの,神経障害による手指の運動・感覚障害を有するもの,主治医または担当看護師により研究参加が困難と判断されたものは除外した.評価項目は,社会医学的情報,唾液アミラーゼ活性(AMYa)と気分調査票(The Mood Inventory;MI)とし,AMYaとMIは介入前と介入直後の2回評価を実施した.介入は,個室で椅座位にて20分間マフに自由に触れてもらった.介入中は,検者が同室に待機し,対象者が話しかけてきた場合はそれを傾聴し内容を記録した.AMYa変化量を主要アウトカムと定め,先行研究を参考に必要なサンプルサイズは18例と算出した.研究実施にあたり一般社団法人プレシジョンヘルスケア研究機構倫理審査委員会の承認を得たうえで,対象者及び家族より文書にて同意を得た.研究期間は2021年9月から12月とした.解析方法は,要約統計量として平均値,標準偏差,最大値,最小値を算出し,介入前後の比較においてはWilcoxon符号付順位検定を行った.検定においては有意水準を両側0.05とし,解析にはIBM SPSS 26を使用した.
【結果】解析対象となった18名の平均年齢は84.4歳(67-96歳),女性15名,男性3名,認知症自立度ランクはⅠ6名,Ⅱa 7名,Ⅱb 5名であった.AMYa変化量(介入後-介入前)の平均は-20.1(最小値-130.0,最大値59.0,SD 52.7)kU/Lであった.介入前後のAMYaの平均を比較すると介入前55.2(SD 14.4),介入後35.1(SD 8.6)であり低下傾向がみられたが,統計学的に有意な変化は認められなかった.MIの5因子「緊張と興奮」「爽快感」「疲労感」「抑うつ感」「不安感」の全てで,介入前後で統計学的に有意な変化は認められなかった.介入中,女性対象者の多くから毛糸手芸にかかわるエピソードや,自身の子ども時代あるいは家族についてのエピソードが聞かれた.対象者からはマフの手触りについて「暖かいね」「気持ちいいね」といった肯定的な感想が聞かれた.
【考察】認知症ケアにおいてマフは,認知症周辺症状(BPSD)にみられる不安や攻撃性などの過活動症状の抑制を期待して用いられることが多く,精神心理面の安定や回想を促すといった効果は報告されていない.本研究の結果から,20分間のマフの使用が認知症高齢者の精神的ストレスと気分の改善に有効であると結論付けることはできなかったものの,マフに触れることがライフレビューや回想を促し,対象者の精神心理面に良い影響をもたらす可能性が示唆された.認知症ケアとしてマフを用いる際は,その生活歴などから適性を考慮するとともに,マフを用いる際の環境設定やマフに取り付けるアクセサリーについても対象者個人に応じた配慮が必要であると考えた.
【目的】本研究は認知症高齢者の精神的ストレスに対するマフの臨床的有用性を検証することを目的として実施した.
【方法】研究の対象は介護保険サービスを利用している「認知症高齢者の日常生活自立度ランク」がⅠからⅢの65歳以上のものとした.日常会話が困難なもの,神経障害による手指の運動・感覚障害を有するもの,主治医または担当看護師により研究参加が困難と判断されたものは除外した.評価項目は,社会医学的情報,唾液アミラーゼ活性(AMYa)と気分調査票(The Mood Inventory;MI)とし,AMYaとMIは介入前と介入直後の2回評価を実施した.介入は,個室で椅座位にて20分間マフに自由に触れてもらった.介入中は,検者が同室に待機し,対象者が話しかけてきた場合はそれを傾聴し内容を記録した.AMYa変化量を主要アウトカムと定め,先行研究を参考に必要なサンプルサイズは18例と算出した.研究実施にあたり一般社団法人プレシジョンヘルスケア研究機構倫理審査委員会の承認を得たうえで,対象者及び家族より文書にて同意を得た.研究期間は2021年9月から12月とした.解析方法は,要約統計量として平均値,標準偏差,最大値,最小値を算出し,介入前後の比較においてはWilcoxon符号付順位検定を行った.検定においては有意水準を両側0.05とし,解析にはIBM SPSS 26を使用した.
【結果】解析対象となった18名の平均年齢は84.4歳(67-96歳),女性15名,男性3名,認知症自立度ランクはⅠ6名,Ⅱa 7名,Ⅱb 5名であった.AMYa変化量(介入後-介入前)の平均は-20.1(最小値-130.0,最大値59.0,SD 52.7)kU/Lであった.介入前後のAMYaの平均を比較すると介入前55.2(SD 14.4),介入後35.1(SD 8.6)であり低下傾向がみられたが,統計学的に有意な変化は認められなかった.MIの5因子「緊張と興奮」「爽快感」「疲労感」「抑うつ感」「不安感」の全てで,介入前後で統計学的に有意な変化は認められなかった.介入中,女性対象者の多くから毛糸手芸にかかわるエピソードや,自身の子ども時代あるいは家族についてのエピソードが聞かれた.対象者からはマフの手触りについて「暖かいね」「気持ちいいね」といった肯定的な感想が聞かれた.
【考察】認知症ケアにおいてマフは,認知症周辺症状(BPSD)にみられる不安や攻撃性などの過活動症状の抑制を期待して用いられることが多く,精神心理面の安定や回想を促すといった効果は報告されていない.本研究の結果から,20分間のマフの使用が認知症高齢者の精神的ストレスと気分の改善に有効であると結論付けることはできなかったものの,マフに触れることがライフレビューや回想を促し,対象者の精神心理面に良い影響をもたらす可能性が示唆された.認知症ケアとしてマフを用いる際は,その生活歴などから適性を考慮するとともに,マフを用いる際の環境設定やマフに取り付けるアクセサリーについても対象者個人に応じた配慮が必要であると考えた.