第56回日本作業療法学会

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ポスター

援助機器

[PL-4] ポスター:援助機器 4

Sat. Sep 17, 2022 2:30 PM - 3:30 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PL-4-2] ポスター:援助機器 4一側上肢における手洗いの洗い残しに関する研究

自助具使用による効果について

鈴木 晶子1蓮井 誠1秋山 恭延1藤田 千佳1藤森 悠菜1 (1JA静岡厚生連 遠州病院リハビリテーション科)

【はじめに】
 当院は新型コロナウイルス感染症による院内クラスターを3度経験した.そのため院内において様々な診療体制が一時的に制限され,リハ科では患者へのマスク着用や介入前後での手指消毒の徹底とスタッフへの標準予防策遵守を図った.
 しかし現状は,リハ対象者の症状は多岐に渡り,手指衛生の実施が不十分なことも少なくない.特に片麻痺患者の手洗いは両上肢での実施が困難となることがあり,非麻痺側は十分に洗えていないとされている.リハ室では,多くの機器や物品を使用することから,それらを介した接触感染が懸念され,手指衛生は標準予防策の基本となる.そのため,安全にリハを実施するには,片麻痺患者の効果的な手洗いの獲得が望まれる.そこで今回の研究は,一側上肢での手洗いによる洗い残し部位や程度を把握すること,自助具の有効性を検証することを目的とした.
 尚,本研究は当院倫理委員会の承認を得ている.
【方法】
 対象は同意を得られた当院リハスタッフ28名とした.手部全体に手洗いチェッカーローションを塗布した後,右手のみで15秒間の擦り洗いと30秒間の流水による手洗いを行い,洗い残しを評価した.洗い残しは,手洗い前後の手掌と手背のローション付着状況を写真撮影し,ImageJを用いて面積を測定,洗い残し率を算出した.手洗い方法は自助具非使用,自助具1(スポンジ素材)使用,自助具2(ブラシ素材)使用の3方法とし,対象者全員が無作為に決定した順番で全手洗い方法を実施した.
 統計学的解析には対応のあるt検定を適応し,有意水準は5%未満とした.
【結果】
 80%以上の対象者において洗い残しがあった部位は,自助具非使用時,爪周囲,指間,手首,指,手背,母指球,小指球であった.同部位について,自助具使用時は,自助具1使用時では爪周囲のみ,自助具2使用時では爪周囲,母指球,小指球であった.
 洗い残し率に関して,自助具非使用時は手背58.7±24.1%,手掌43.8±20.2%,自助具1使用時は手背15.6±16.5%,手掌27.8±22.6%,自助具2使用時は手背19.6±16.6%,手掌21.8±23.5%であった.自助具非使用時と比較し,自助具1および2使用時は有意な洗い残し率の減少を認めた(p<0.05).自助具1,2間の有意差は認められなかった.
【考察】
 結果から,自助具使用時は自助具非使用時と比して洗い残し率は有意に減少した一方,各方法の標準偏差は大きく,個人差は大きいことが伺える.一側上肢のみの手洗いでは,擦り洗いが可能な範囲は限局される.自助具の使用は,指尖のリーチが困難な部位の擦り洗いを可能にすると考えられ,自助具提供の有効性が示唆された.また,個人差が大きいことに関して,自助具により一定の効果は得られるが,更なる介入が必要であると考えられる.今回は対象者に対して手洗いの練習や手洗い後の対応は行っていない.画像による確認は教育効果を上げたといわれており,対象者に手洗い結果の視覚的,客観的,具体的な説明と個人に合わせた手洗い方法の指導を行うことで,より効果的な手洗いにつながると考えられる.
 片麻痺患者を対象とした際は,洗い残し部位や洗い方の明確化により,麻痺側の自発的なADL参加の一助となる可能性がある.また片麻痺患者は拘縮や高次脳機能障害を合併していることが多く,更に個人差が大きいことが予測され,より個別性を重視した自助具の選定,指導が必要だと考える.
 今後は,対象者への教育方法や自助具の形状,手洗い時間・回数等の検討が必要となる.