第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

MTDLP

[PM-2] ポスター:MTDLP 2

2022年9月16日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PM-2-1] ポスター:MTDLP 2MTDLPを用いて目標を明確化したことの効果

意欲と活動性が向上した一症例を通して

田村 洋子1稲富 惇一2大槻 哲也1西村 望1 (1訪問看護ステーションMARE,2土佐リハビリテーションカレッジ作業療法科)

【はじめに】
生活期リハビリテーションは対象者の活動性向上に主眼を置き,自らが主体性を持って行えるように促す事が重要である.しかし,実際には具体的目標が定まらず活動量が低下し,機能低下を引き起こす方も少なくない.今回,脳梗塞発症から4年経過している50歳代の女性を担当した.生活行為の目標が定まっていないことに加え,麻痺手を日常生活で使用する事は乏しく,日々の活動量も低下していた.そこで生活行為向上マネジメント(Management Tool for Daily Life Performance:MTDLP)を使用し,合意目標を明確に決めて包括的に介入したところ,意欲が向上し実行度・満足度の上昇や上肢機能の向上を認めたため,以下に報告する.なお,本発表に際して症例には口頭および書面にて同意を得ている.
【対象】
4年前に脳梗塞を発症した右片麻痺を呈する要介護度1の50歳代の女性で,現在ヘルパーと妹の協力を得て独居生活を送っている.今回上肢機能の低下が見られたため,訪問看護として作業療法が開始となった.希望は特になく,麻痺手の機能レベルは高いものの生活場面での使用頻度は乏しかった.活動量低下と麻痺手の機能低下を防ぐため,MTDLPを用いて目標設定を試みたところ,「日頃の感謝を伝えるために手紙を書きたい」と希望された.書字場面では,麻痺側母指の橈側外転が不十分なため鉛筆の把持が持続困難で,非麻痺手で添えて書字動作を行うものの字に乱れがあった.上肢機能はFugl-Meyer Assessment(FMA)上肢運動:51/66点で肩関節に二横指の亜脱臼があるものの装具には拒否傾向.合意目標は「ケアマネージャーに日頃の感謝を伝えるため読める文字で年賀状を書く」とした.実行度と満足度はともに1点であった.
【作業療法介入】
目標達成に向けて期間を1ヶ月とし,基本プログラムは手指のROM訓練,母指の外転,橈側外転を促し,手のアーチの形成に介入した.自主練習として運筆や書字練習,ワイピングと手指の分離した伸展を促す運動を実施してもらい,飲水の際に麻痺側でコップやペットボトルを把持し,非麻痺手で下から支えるよう指導した.自主練習や飲水方法は紙面で視覚に入りやすい場所に掲示し,日常生活に定着させる為,妹とヘルパー,訪問の看護師にも伝達して声掛けを行ってもらい,本症例が麻痺手の参加を意識しやすいよう連携した.
【結果】
書字の際の文字の乱れは軽減し,大きさを統一して書けるようになった.また合意目標は達成され実行度5点,満足度7点と向上が見られ,生活場面での活動量も前年に比べ増した.その他に目標達成の為に自主練習にも意欲的に取り組み,生活場面での麻痺手の使用頻度が増加し笑顔が多くなった.上肢機能はFugl-Meyer上肢運動:54/66点と向上した.
【考察】
生活期の対象者に対し,MTDLPを使用することで,能登ら(2020)は健康関連QOLの向上を示唆しており,伊藤ら(2020)はADL,IADLや自己効力感の向上に寄与したとしている.今回MTDLPを使用しケアマネ等の他職種と連携することで,本症例に関わる短期目標や介入する際の意識する点が共有でき,自主練習や飲水方法の継続が達成し,上肢機能にも改善が見られた.また,周囲からポジティブフィードバックを受けることにより意欲向上に繋がり,明確な目的を達成できたと考える.生活期でのMTDLP使用の有用性が示唆された.