第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

MTDLP

[PM-3] ポスター:MTDLP 3

2022年9月17日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PM-3-4] ポスター:MTDLP 3筋委縮性側索硬化症患者に対する告知後早期からのMTDLPの実践

浅野 祐平1浅野 友佳子2 (1砂川市立病院医療技術部リハビリテーション科,2文屋内科消化器科医院 訪問リハビリテーションらいらっく)

【はじめに】 筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)告知後の患者は,受け止め方や感情に個人差があるものの,病と向き合うために心理的援助を必要とする(森 2005).そこで今回,ALS告知後の患者に対し,早期より生活行為向上マネジメント(以下 MTDLP)を活用し,心理的援助に加え参加や環境の側面からも介入した結果,疾病が進行する中でも目的を持ち満足した生活が維持できたため,以下に考察を加え報告する.尚,本報告にあたり本人に同意を得ている.
【事例紹介】 A氏,70歳代男性,X-1年に上肢の筋力低下を自覚し徐々に症状が進行した.X年Y-1月に当院受診し,X年Y月に入院,ALSと診断され,作業療法(以下 OT)を開始した.教員定年後はカメラ撮影や旅行を楽しみ,ウェブログ(以下 ブログ)等で発信し他者交流も多かった.初回入院前に息子家族と花見旅行の計画があったが入院により中止となった.
【作業療法評価】 告知後,A氏は疾病に関して一部理解を示したが,将来の不安から独り過ごす事が多くなった.A氏はOT場面で「家に帰ってカメラで桜を撮りたい」と旅行が中止になった悔しさを訴え,家族は「旅行に連れて行ってあげたい」と協力的であった.ALS機能評価スケール改訂版は37点,身体機能はMMT上肢3-4,体幹3,下肢4-5,呼吸筋低下も認めた.認知機能は問題なく,基本動作は長距離歩行時に呼吸苦とふらつきを認めた.ADLはFIM123点と自立していたが,整容動作で疲労し,趣味の一眼レフカメラは持ち上げるのが精一杯であった.そこでA氏と相談し「車椅子で旅行し,桜の撮影と外食する」を合意目標とし,物的環境の調整と家族に介助依頼する事とした.自己評価は実行度・満足度共に1であった.
【基本方針・計画】 チーム方針は心理的ケアの実施と在宅生活や趣味の再開とした.主治医は病態を管理し,疾病等の説明を行う.理学療法士は基本動作訓練を行い,作業療法士はADL訓練や福祉用具選定の他,他者交流や趣味に関わり,家族へ支援指導も行う.看護師は病棟ADLの実践,家族は日常生活や旅行時の支援を行う事で役割分担をした.
【経過】1)心理的援助中心の時期(10日間):元教師で交流を好むA氏であったため,OTRを介して若年層患者との関わりから始め,徐々に交流範囲を拡大した.一部の患者やスタッフには病気を打ち明け,病気と共に生きていくと話し,退院後の生活に対し前向きなイメージを持つようになった.
2)合意目標獲得に向けた時期(7日間):身体機能は若干改善し,整容等で上肢の連続動作が以前より可能となった.趣味のカメラ再開に向け,保有機種からのカメラ選定やアクセサリー導入,動作方法についてA氏と相談しながら進めた結果,A氏は「これなら撮れそう」と話した.病棟では写真編集方法等を自ら検討する様子も認めた.
【結果】 退院後家族と共に花見に行き,自己評価は実行度5点,満足度8点と向上した.その後,症状進行に応じ入退院を繰り返したが,「在宅生活を送り自宅で入浴する」,「指伝話アプリを活用しブログの再開」等症状に合わせ合意目標を設定し実行した.療養病院入院後もブログ発信は更新され,A氏から「やりたい事がやれて充実している」とメールが送られてきた.
【考察】 進行性疾患の告知後,誰しもが不安を抱き,進行していく機能や生活に恐怖を抱きやすい.今回,告知後のALS患者に対し,従来の心理的援助に加え早期より参加に目を向け,環境面に関して事例と共に考える事で,進行していく生活において環境面の工夫から生活が継続できる事を見出し,能動的な行動変容に繋がったと考える.以上の事から進行性疾患における早期のMTDLPの利用は対象者自ら今後の生活を工夫して能動的に過ごすための一因になる可能性が示唆された.